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第6話/空気の技術

 

「ここか……」


 ワイオミングの言う通り、裏通りを抜けて左に進んで二番目の角を……あれ?三番目だったっけ?とにかく、それっぽい所に着いた。

 最後に頼りになるのは、冴え渡った野生の勘だ。

 冗談。

 ただ、ピリピリした危ない臭いのする方向に進んだだけ。


 俺は、落書きされたボロボロの廃屋の物陰に隠れて、遠くにそびえ立つ結社を睨んだ。


 そんな俺の事を、すれ違うガラの悪い怪物達が怪訝に一瞥していく。最初の方は結社の怪物だと思って警戒したが、近付いて来るどころかむしろ避けられているように感じる。


「厄介ごとには、巻き込まれたくない」


 すれ違うどの目も、そう言っていた。



 さて、どこから侵入はいるかな……。


 見た感じだと裏口は無く、入り口は重々しい正面の門のみ。警備員二人付き。西洋風な、いかにも魔王の城っぽいギラギラと頑丈そうな四階建てで、ボロボロの平屋が多いこの周辺では異彩を放っている。


 少し考えて結論を出す。


 面倒くさい、正面突破だ。


 バイクのエンジンの調子を確かめるように魔力を孕んだ右腕を震わせると、「轟!」と空気が乱暴に唸りを上げた。


「殺りますか」


 スッと隠れていた物陰から出ると、誰かに肩を掴まれ、闇に引きずり戻される。


「ッ‼︎」


 背筋が凍り、全身に鳥肌が立った。

 魔闘結社の奴か。クッソ、気付かれてたのか。


 俺は両手を上に上げた。服従の意を示す為ではない。

 油断した隙を見て奇襲する為だ。


「そうビクビクすんなって。あたしだよ、この馬鹿」


 敵の面を拝もうとゆっくり振り返ろうとする前に、聞き慣れた声がして、ついでに頭を小突かれた。振り返ると、猫耳ならぬ狼耳を生やした姉貴が無表情で真後ろに立っていた。


「姉貴⁉︎ ンだよビビらせやがって。って言うか何でいるんだよ?」


「その話は後だ。魔法石奪還には、あたしに考えがある。どーせあんた、強行突破とか頭悪い事考えてたんでしょ」


 うぐ……、何で分かるんだよ……。

 言い返したくても実際、それが真実なので反論出来ない。


「じょ、上等だ! 姉貴の考えとやらを聞かせてもらおうじゃねーか!」


 精一杯強がってみたが、姉貴のニヤリとした不気味な笑みに、思わず息を呑んだ。


「爆破テロはお好き?」


 ……やっぱりこの人怖い。




 * * *




 俺は、手はず通り警備員の死角になる建物の影に身を潜めた。


『オーケー。着いたぜ』


 廃屋の屋根の上に仁王立ちしている姉貴に小さく手を振り、片手で丸を作った。

 それに気付いた姉貴が手を振り返し、耳をふさぐジェスチャーをしてみせた。


『了解。音に気を付けろよ』


 みたいな事を言いたいのだろうな。俺は


 ドゴォォォン‼︎


 何の前触れも無く、結社の一階の辺りで爆発が起こった。「パリン!」と窓ガラスが派手に割れてキラリと宙を舞い、台風のような爆風が容赦無く俺に襲いかかった。


「うおっ!」


 俺は咄嗟に降り注ぐガラス片を腕で庇い顔を守り、爆風に圧されないように足を踏ん張った。


 ホント危ない事するよな、姉貴は。これ、常人だったら全身にガラス片が刺さって両耳の鼓膜が弾け飛んでたぞ。あぁ、狼男に生まれて、良かった!


『……と、言うとでも思ったかこの野蛮人! 何しやがる!』


 俺はそう怨みを込めて、まるで放火魔のような恍惚とした表情を見せる姉貴を睨みつけた。その視線に気付いた姉貴は、つまらなそうに鼻を鳴らして、チョイチョイと爆発で混乱している門の方を指差した。突撃の合図だろう。


「ったく、人使い荒いぜ……」


 独り呟き、俺は物陰から、爆煙と悪魔達の怒号で混沌を極めた結社の門に飛び出した。

 門が近付くにつれて叫び声も大きくなっていく。

 悪魔達の流れを見てみると、どいつもこいつも狼狽えて右往左往している。周りを気にする奴はいない。

 これなら紛れ込むのは楽そうだな。


 俺は持ち前のフットワークと、電車通学で培った人の波をかき分ける技で、するすると結社内への侵入に成功する。

 ……いや警備ザル過ぎだろ。


 難なく門を突破し、一階に到着した。


 俺の体にまとわりつくサウナのような熱い空気。パチパチと爆発の残り火が音を立てて観葉植物の鉢を燃やす。そして何より、満員電車に似た悪魔達の熱気。


「……うわぁ」


 俺は人混みを押し分けて、一人眉を潜めた。非常に不愉快で、今すぐにでも帰りたいのだが、まだ魔法石の回収が終わっていない。


 俺は視線を巡らせた。何か少しでも手掛かりを探すため。

 とは言えただキョロキョロしているだけだと不審に思われる。なので俺は混乱している場の雰囲気を読み、違和感を感じさせない空気のように振る舞う。


 ふっ、人がいる空間内で存在感を消すのは得意でね。


 ……なんか涙出てきた。煙が目に染みるんだよね? そうだよね?


 ハッ! そんな事より魔法石はどこだ?

 俺は、腕で涙を拭いて気をとりなおした。

 でもな、厳重に管理されてるんだろうな。ちょっと見ただけで……あ、見つけた。


 時折チラつく人混みの隙間から、肘掛けのような高い台に、いかにもって感じの宝石箱が鎮座しているのが見えた。魔法石をハッキリ見た訳じゃないが、そこにある気がする。


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