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第5話/情報者

 

 ヨダレを垂らしてイモリの黒焼きを眺めているゴブリン共に怒りと絶望を覚えたが、確かに俺もヤの付く自由業の方々のアジトなんて知らない。


 面倒臭いが魔界の情報屋を探した方が手っ取り早いな。

 チッ、イモリ一匹無駄にしちまったぜ。


 恵まれない子供達に高級食材を与えた(と言う事にでもしておかないとやってられない)善人の俺は、踵を返して場を去ろうとする。

 が、俺の服の裾を誰かが掴み、引き止めた。


「俺……知ってる」


 今なんて?


 信じられない思いで振り返ると、モブリン含む他の奴等とは雰囲気が違うゴブリンがカミソリのような目で俺を見上げていた。

 あちこちが破けた白い外套に、風にたなびく黄色いマフラー。

 よく見るとコイツ、他の奴等より服の汚れが少ない。新入りって所か。


 それに、目の色が違う。


 過去に大事なモノを喪い、世界に絶望した目だ。


 そんな目の持ち主は、私欲の為にくだらない嘘を吐かない。俺はこのゴブリンを信用し、改めて依頼した。


「どうやら本当っぽいな。俺は狼男の狼月灰、道案内よろしくな」


「ああ。俺の名前はワイオミングだ。よろしく」




 * * *




 五分ほど歩き、俺達……正確にはゴブリンの群れ+俺は、騒がしい繁華街に入った。


 見た事も無い怪しげな干物を売る出店や、大声を張り上げ汚い屋台を転がすおっさん(もちろん人間ではない)やらがそこら中にいる、中々カオスな空間だ。


 繁華街に限らず、俺は人が沢山いたり、騒がしい場所は嫌いだ。視覚や聴覚などあらゆる感覚に暴力的な刺激を受けて、疲れてしまうからだ。


 それが魔界なら、尚更の事。


 十メートルおきに遭遇する乱暴な客引きや、頭の悪い奴等同士の怒鳴り合いが現世のそれとは段違いに俺の神経をすり減らす。ゴブリン共は、気にならないのか、もう慣れているのか遠足の小学生のようにワイワイやっているが。


 楽しそうな奴等とは対照的に、ワイオミングは沈痛な面持ちで結社への道を先導している。


「俺の村、魔闘結社に襲われた。畑は焼き払われて、皆殺された。でも俺、たまたまバレずに生き残った」


 喧騒の中、ワイオミングは呟くように独りで語り出した。その声は、周りの五月蝿うるささにかき消えてしまいそうだが、俺の耳には一語一句はっきりと聞こえてきた。


 魔界にいるから俺の怪物としての特徴が強くなっているのだろう。小汚いショーウィンドウを覗いたら、俺の頭に三角形の大きな狼の耳が生えていたから、間違い無い。


「俺、後をつけた。途中、見つかって殺されかけた。でも、場所は覚えてる」


 嫌な事を思い出したと、苦悶の表情を浮かべるワイオミング。

 コイツは奴等に何をされたのだろうか。まだ死んでないだけマシと捉えるか、生き地獄を味わうくらいならいっそ楽になりたいと思うか。


 と、彼がピタッと立ち止まった。俺の方を振り返り、親指で狭い裏通りを指差した。


「この先を抜けて左に進み、三番目の角を右に曲がって更に一キロ歩くと、奴等のアジトだ」


「ああ……そこまでは連れてってくれないのね……」


 俺の軽口に、ワイオミングは申し訳なさそうな顔で、後ろではしゃぐゴブリン達を見た。


「俺も、出来るならそうしたい。でも、こいつらを危険な目には遭わせられない。こいつらは、俺を拾ってくれた恩人だし、大切な仲間だ」


 だから、と俺の方を向き、節くれた握り拳を突き出した。


「頼んだぞ、狼男」


 俺はニヤリと笑って、想いが託された拳に自分の拳を重ねた。


「おうよ。任せな」


 ワイオミングは照れた様子で拳を離し、俺にニッと笑ってみせた。

 俺はその子供のような笑顔を横目に、リュックからイモリの黒焼きをあるだけ取り出し、ワイオミングに渡した。


「約束だ、持ってけ」


「ぬおおおおおおお!こんなに沢山良いんでやんすか? ウッヒョー! やったでやんすよワイオミング!」


 獲物を横取りするハイエナのようにどこからか湧いて出たコネチカットと愉快な仲間達が、ワイオミングを取り囲み喜びの声をあげている。


「お、俺は別にお前らのためなんかじゃ……」


 胴上げされそうな勢いでもみくちゃにされるワイオミング。お前はツンデレかよ。


 別れの挨拶なんて雰囲気じゃないな。


 俺は、誰にも気付かれることなく、繁華街の喧騒に身を溶かした。


これを読んで「マチトム」が頭に浮かんだあなたは、はやみねかおるさんの作品の読みすぎです。

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