第6話/油断
「桃瀬、お前に言わなきゃいけない事がある。俺は」
そこまで言って桃瀬の様子がおかしいことに気づいた。
俺の方を見てしきりに震えている。
そんなに俺の顔怖いか? と一瞬思ったが、さっきまで消えかかっていた邪気が爆発的に湧き上がっているのを感知し、全てを理解する。
「女……若イ女ダ……」
フレイムキャノンで仕留めたはずのミノタウロスがすぐ後ろに立っていた。
「や、止めろ! そいつに手を出すな!」
俺はミノタウロスに飛びかかろうとした。だが、奴はさっきまでとはまるで違うスピードで俺をつき飛ばし桃瀬を捕まえた。
「ハァハァ……ウヘへへへ。今夜ノ晩飯ダ」
「いやああああ! 助けて灰‼︎」
桃瀬が必死で俺に助けを求める。
「ウルセエヨ」
ミノタウロスが桃瀬の鳩尾を殴った。
「……!」
声も出せず膝から崩れ落ちる。
「待てミノタウロス! 命が惜しいなら今すぐその人間を置いて消えろ!」
ゆっくりミノタウロスが振り返る。その手には拳銃が。
気がついた時にはもう遅かった。
パァン。
発砲音が聞こえ、それと同時に俺の右腕から鮮血が弾けた。
傷は浅いが強烈な痛みに耐えられず、俺はその場に倒れ込んだ。
「狼男ノ弱点ガ銀ノ弾丸ナノハ、今モ昔モ変ワラナイ様ダナ。ソコデノタレ死ネ」
そう言ってミノタウロスは桃瀬を連れて歩いて行った。
今までずっと恐れていた事態が起こってしまった。
俺なんかを追いかけたばかりに桃瀬が、
殺される。
くそっ、動けよ。俺の体。
そんな気持ちとは裏腹にどんどん全身の力が抜けていく。
自分の魔力が弱まっていくのが感じられる。
視界がぼやけてくる。意識が遠くなる。
指一本動かせない。
ごめんな、桃、瀬……。