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第15話/役不足

 

 そこは廃ビルや錆びれたネオンが立ち並ぶ暗い大通りだった。


 夜の喧騒も街の灯りも届かない。電車の通過音だけが響き、空間を暗闇が支配する。


 なんか誘導されてる気もするが、人通りの少ない所に連れてってくれるならむしろ歓迎、ウェルカムだ。罠だとしても返り討ちにするまでよ。この最強のお姉さんがな。


 すると、突然サキュバスが立ち止まり、振り返った。


「ここら辺で良いかな……。おーいみんなー、集合ー!」


 そのひと声で、道の遠くの方に白いモヤが掛かった。

 風に煽られるカーテンのように揺れ動くそれは徐々に晴れていき、おびただしい数の人影を現した。


 1メートルほどの小さな体に黒い全身。特徴的な尖った耳のシルエット。先が鉤状の長い尻尾は歩く毎に左右に揺れ動く。

 それに混じるように、高そうなスーツをだらしなく着崩したチャラいホスト風の野郎共もかなりいる。

 ちっちゃい奴はさておき、頭悪そうなホスト共は多分インキュバスーーサキュバスの男バージョンーーだな。


「チッ、バカ共が」


 あたしは、悪魔の低脳さ加減に毒づき、後ろを振り返った。

 案の定ちっちゃい奴とホストの群れが肉壁となり退路を塞いでいた。


「フフ、どう? 私の美貌に引き寄せられた忠実な僕達。あなたに倒せるかしら?」


 数が……多過ぎる。コイツどれだけ人気なんだよ。そのコミュ力ちょっと分けろ。

 あたしはゆっくりと膝をついた。俯いて前髪に隠れた目が地面を睨みつける。


「お、アレ“土下座”でもするんじゃね?ギャハハ、超ダッセー!」


 先頭を歩く1人のホストが下品な笑い声を上げた。水面に石を投げ入れその波紋が広がるように、笑い声が広がっていく。


 あたしの周りに嘲笑の渦が巻き起こった。


 手拍子と共に「どーげーざ!どーげーざ!」と馬鹿共が汚い声で大合唱している。


 お前ら全員、皆殺しな☆


 あたしは、地面を睨みつけたまま、右の掌を地面に付けた。


 ーー姉貴じゃ役不足だ。


「エクスプロージョン・フレイム」


 地面に光を帯びた魔法陣が浮かび上がり、前後の肉壁に向かって閃光が放たれた。閃光は魔法陣を肉壁共の足元に展開し、爆発魔法を炸裂させた。

 噴火した火山の如く炎と轟音が響き渡り、爆風が吹き荒ぶ。


「ぎゃああああああああああ‼︎」

 

 悪魔共は1人残らず断末魔の叫びを上げ、粉々に砕け散った。

 それだけに留まらず、爆発の高熱を全身を浴び、蒸発して消えていった。


 どうよ、この残骸すら残さない完璧な仕事っぷり。


 あたしは立ち上がり、かつて僕達がいた大穴を呆然と見つめるサキュバスに視線を戻した。


「そんな……あの大きさの魔法陣の遠隔操作に複数展開、しかも威力は化け物級……。あり得ない……そんなのあり得ない……」


「あり得ない事するのが魔法使いだろ。それにもし、あたしに肉壁で対抗したいなら、あんなカス共じゃなくて戦闘に特化した悪魔を、今の100倍連れて来な」


 悔しさに顔を歪めるサキュバスだったが、すぐに余裕の笑みを取り戻した。


「やっぱり切り札は持っておくものね」


 そう言うと、サキュバスは指をパチンと鳴らした。肉壁を呼び寄せた時のように白いモヤが掛かる。


 モヤが晴れて現れたのは、頭にやたら長い角を立て、背中に妙な羽が生えたなんか黒くてデカい筋肉質な人型の怪物だった。

 威嚇のつもりか、赤いピッチフォークを得意げに振り回している。誰だか知らんが邪魔をするな。


 あたしは右の掌を怪物に翳し、昔親父に教わった魔法を詠唱した。


「えーと、バーニングなんとか」


 しょうがないだろ、教わったのだいぶ前の事なんだから。それに、大事なのはビジョン。名前なんてただの飾りだ。

 現に、右手の魔法陣から噴き出された炎は、正確無比に怪物を捉えている。


「イヤアアアアアアアアアア!」


 怪物は、その見た目にそぐわないハスキーボイスで絶叫し、特に何の役にも立たずにこの世を去っていった。


「……これが、あんたの切り札?」


 あたしは掌を閉じ魔法陣を消して、若干呆れ気味でサキュバスに視線を向けた。冷たい声に、ビクッとサキュバスの肩が震える。


「まだ闘る? それとも魔法石返す?」


「ごっ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ななな、何でもする、しますから命だけはお願いしますぅぅ!」


 余裕のある仮面が剥がれて本性が露わになったサキュバスは、涙ながらに命乞いした。

 リア充顔の鼻を折れて爽快っちゃ爽快だが、惨めな目で見つめられると、自分が悪党になったようで気に食わない。

 それに、もう怒りも冷めてしまった。


 よくよく考えたらあたしにはコイツを殺す理由がない。

 情報を洗いざらい引き出して、ついでにぶっとい釘を刺せばそれで終わる。

 あたしは、張り詰めた表情を和らげてサキュバスに話しかけた。


「別にあたしはあんたを殺すつもりはない。ただ、正直に質問に答えてくれれば命まで取りはしないさ」


 甘いとも言えるその言葉に、サキュバスは涙に濡れた顔をバッと上げ、安堵の表情を浮かべた。

 ふぇぇ、と息を吐き出し、それから満面の笑みをあたしに見せた。


 現金な奴め。


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