第14話/行動開始
タイトルを「Gray Wolf-不器用な根暗狼の青春録」から、「不器用な根暗狼の青春録ーー切り札は代償付きの最凶魔法」に変更してみました。
以後、お見知り置きを。
「ほほぉ。つまりはあんたが勝手にトラウマ呼び起こしたせいでサキュバスに風の魔法石とやらを奪われた、って訳ね」
「……なんか色々飛ばしてる気がするけど、まぁ大体そんなだ」
何だ、文句あんのか。そもそも要約ってのは飛ばしてナンボだろ。
どこか不満げな灰を気にせず、言葉を続けた。
「分かった。完全に理解した。それじゃ、本当にサキュバスはあんたの高校の駅前のファミレスにいるんだな?」
「ああ。桃瀬に事情説明して2時間程足止めしてもらってる。……ん、そろそろ時間だな」
「あ、そう。行ってくる」
「行ってら……っておい! 何で姉貴が行くんだよ!」
ノリツッコミかと思ったら、灰の目がマジだったのでただの天然だと分かった。
そんな当然の事説明させるなよ。
「何でって……あんたが行ったらまたトラウマ呼び起こして同じ結果になるだけじゃん? だからあたしが」
「やめとけって。相手にすらならないぜ、多分」
「大丈夫。最後に怪物狩ったのは確か……5年前だな。まぁ、良い勝負くらいにはなるんじゃないの?」
「姉貴じゃ役不足だ。俺が行くよ」
大丈夫だって言ってるのにまだ止めようとするのか。
シスコンかよお前。気持ち悪い。
「あたしの勝手だ、好きにさせろ。今日は母さんが仕事の日だからお前は美味い晩飯でも作って待ってな」
そう言い捨て、あたしは灰が何か言う前に部屋を去り玄関へと向かった。ドアノブに手を掛け思い出す。
「……財布忘れた」
カッコつかねぇ……。
* * *
改札を出ると、時刻は夜の6時を回ったと愛用の細い腕時計が告げた。
夜の街は昼とは違った一面を見せる。
部活帰りの女子高生の群れ。
スーツを着込んだサラリーマン。
ライトを灯した車は道を照らし、轟音を立てて通り過ぎた。
この辺りは決して都会ではないが、人が集まる駅前だからか、夜でも暗くなく、そこそこ活気付いていた。
「あそこか……」
活気の中で、一際明るい店があった。例のファミレスである。サキュバスがどんな奴なのか訊き忘れたけど、まぁ変な奴に注意してればなんとかなるかな。
あたしは、ファミレスの対角に位置するベンチに腰掛けた。ここなら出てくる客がよく見える。気分はまるで張り込み中のベテラン刑事だ。
いつまで待つんだろ。牛乳とアンパンがあればなぁ……。などと、どうでもいい事をボンヤリ考えていると、早速ファミレスのドアから誰か出て来た。女子高生2人組。
あれは……も、もしや桃瀬か?あらあら見ないうちに随分立派になっちゃって。そりゃそうか。最後に会ったのは灰が小学生の頃だもんな。
……って事はその隣で話してるビッチみたいな奴がターゲットか。クク、嬉しいぜ。法に触れずにリア充顔を葬り去れるなんてな。
2人の方を見て邪悪な笑みを浮かべていると、桃瀬と目が合った。
桃瀬は、一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにターゲットと向かい合い、バイバイと手を振った。そして、駅とは反対のスーパーに向けて歩き出した。
サキュバスは、振った手を名残り惜しそうに下ろした後、真っ直ぐに駅に向かって行った。
楽しませてくれよ。
あたしは若干温まったベンチを立った。不自然に思われない程度の早歩きで、難なくサキュバスのすぐそばまで追い付く。
問題はそこから。
さぁ、初対面の人に話しかけてみよう!
…………。
い、いや、コレは人の形をしているけど人じゃない。サキュバスだ。悪魔だ。
だから全然普通。全然イケる。そんな日本語ないけど。
現実的な問題に脳内で混乱していると、混乱の元凶がくるりとこちらを振り返った。
「何ですか?」
警戒心を覆い隠した仮面の笑顔と、甘ったるいキャンディボイスがカンに触る。
不機嫌になったからか、あたしは冷静さを取り戻した。
「何って、さっさと魔法石とか言うヤツ返せ」
コイツは人間じゃない。人間を食い物にするただのゴミだ。ゴミと話すのに遠慮なんていらない。
「何の話ですか、お姉さん? シノちょっと分かんないなぁ。何もないなら帰りますので、それじゃ」
“シノ”はキョトンと小首を傾げた後、立ち去ってしまった。
ふざけやがって、逃さねーぞ。
あたしは、シノに付いて行った。
交渉的なスキルはゼロに近い、って言うかゼロだからな。
人通りの無い所まで行って拷問、かな。スマートじゃないけど、仕方ない。拷問なんて出来るかな。やった事ないから分かんないや。……いや、普通そうか。
やっほ〜!
ブクマ一件増えたよ〜!
今後ともよろしくお願いします!




