第12話/ろくでなし姉弟
俺は、無力だ。
俺のせいで疾風宮が傷付き、魔法石が奪われた。
もし俺が「業」なんてカッコつけた言葉に惑わされずに奴を倒して、風の魔法石を取り返したら。
そうすれば疾風宮にも僅かながらに慰めになったはずだ。
だが、俺はそれをしなかった。否、出来なかった。
やはり俺には友人など持つ資格はない。
俺は、無力だ。そして、甘い。
同じ様な事をぐるぐると考える毎に、自分を嫌いになっていった。
それから家に帰るまでは、なるべく気丈に振舞った。
桃瀬に勘付かれまいと、疾風宮に思い出させまいと。
偽りの笑顔で過ごしたこの時間は、苦痛以外の何物でもなかった。
* * *
何だか灰の様子がおかしい。
学校から帰るなり部屋に籠って暗い顔でゲームをしている。
いつもの妙な鼻歌や気持ち悪い独り言は全く聞こえずひたすら悶々とモンスターと戦っている。
不規則に指がスマホを叩く音だけが響く。
部屋の端と端の、壁に向き合う形で机が置かれている間取り。灰とは空間を隔てて背中合わせで座っていると言うのに暗い負のオーラがこちらにひしひしと伝わってくる。
姉弟の共同部屋の宿命なのだが、これ以上この重い空気を共有したくない。
それに、ちょうど暇だから灰に何があったのか聞いてみよう。
……ただ暇だっただけだからね。
別に心配してる訳じゃないからね。
1人で変な念を押したあたしは、読んでいた本を勉強机に伏せて背中合わせのまま話しかけた。
「どーした、なんかあったの?」
言葉を色々省略している気もするが、幾ら考えてもこれ以上の台詞は思いつかない。
まどろっこしい真似はせずにストレートに行こう。直球勝負だ。
「……何でもねぇよ」
少しして、ぶっきらぼうな声が聞こえた。
その不貞腐れた答えと声の意味は、コミュ力の低いあたしでも分かる。
何かあったな。
しかしコイツ、可愛くねぇな。
せっかくお姉さんが励まそうとしてるのに。
「何だその口の利き方。ナメてんのか。ったく、何があったか知らねーけど人に当たるなよ」
おっと、いかんいかん。励まそうとしてるのについ、いつもの調子で言ってしまった。
「……ウゼエんだよ。ほっとけ」
静かな怒気をはらんだ返事が返ってきた。
心なしかスマホを叩く音が強まった気がする。
灰のくせに生意気だ。本当にコイツ殴り飛ばしてやろうかな。
……でもそれじゃ灰の悩みを聞けない。
額に浮かんだ青筋を指で揉んで怒りを鎮めつつ、冷静に思考を巡らせる。
まず学校で何かあったのは確定だ。そして「学校の悩み」と言うと人間関係しか無い。
この位なら灰の姉であるあたしなら手に取るように分かる。
暗黒の青春を傷だらけで駆け抜けたろくでなし同士だから、分かる。
やってやるか。




