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第9話/死ぬまでに言いたい台詞

 

『もしもし、狼月 灰君だね』


 電話に出たのは、父でも母でもないおっさんだった。

 ……誰?


「……どちら様でしょうか? と言うかかけ間違えじゃないでしょうか? と言うか何で俺の名前知ってるんだよ、ですか?」


 俺は歩きながら謎のおっさんに答えた。

 おっさんは電話の向こうで小さくハッ、と笑い声をあげた。何この人怖い。


『私だよ私。黒岩だ』


 ……誰?


「……どちら様でしょうか?」


 電話の向こうで小さくアゥ、と悶絶する声が聞こえた。何この(以下略)


『ひ、酷いな……。先日、疾風宮君と喫茶店で話したじゃないか。もう忘れたのかい?黒岩だよ』


 疾風宮、喫茶店……。

 俺の脳裏に全身黒ずくめの奇妙な人外生物が浮かんだ。


「あ〜はいはい黒岩さんか〜。ゴッメンナサイね〜。完全に忘れてました。てへ。……って、何で俺の電話番号知ってるんですか?」


 このおっさんとメアド交換などした覚えがない俺は、眉を顰めた。僅かにストーカー被害者の恐怖を味わう。


『私の【魔眼】を以ってすれば君の電話番号なんていとも容易く視ることができるのさ。そんな事はどうでも良いとして本題に戻るぞ』


「なんでしょうか」


 平静を装い返事をしつつ、必死で笑いを堪える。

 魔眼とか。怪物じゃなかったら只の変態だな。


『……今、何かとても失礼な事を考えてなかったかな?』

「なっ……! い、いやいや、ととと、とんでもないです。


 それで、邪気眼がどうしたんですか?」


『そんな話はしてない。実は、K-12地点……いや、隣町の5丁目で強力な魔力反応が検出された。多数の怪物が潜んでいる可能性が極めて高い。我々、空間管理局の自衛部隊も向かわせているが、君にも応援に来て貰いたい』


 おいおい……これでも俺、学生なんだぞ。空間管理局だかなんだか知らないけどそこまで一介の学生に頼られても困るってモンよ。十八番も封印してるし。


「ええ……つまり俺に学校サボれと? まぁ、良いですけど。……ッ!」


『何⁉︎ どうした?』


 俺の肌が湧き上がった邪気を感知した。かなり近い……校内か⁉︎

 邪気の正体を掴みたかったが、今は黒岩さんから遊撃を依頼されている。そっちが優先だろう。応援を頼まれるくらいの事態だからな。


「別に大した事じゃないんですけどね、とても近い地点……恐らく校内から邪気を感じたんですよ。まぁ、気のせいかも知れないんでそっち行きます」


 だが黒岩さんの反応は意外なものだった。


『学校に、邪気⁉︎ 応援要請は取り消す。今すぐその邪気を感じた地点へ向かってくれ!』


「い、良いんですか?その……俺に応援を頼むって事は余程の強敵なんじゃ」


『大丈夫だ。K-12地点には私が向かう。出来ればこの魔眼の“力”は破壊の為に使いたくないのだが……止むを得ん。ここは私に任せて、君は行け!』


 何それカッコいい。


「分かりました。俺もコトが済んだら向かいますんで、それまで食い止めてて下さいね!」


『私独りで十分さ。切るぞ』


 慌ただしく切れた電話をポケットにしまい、俺は独り駆け出した。




 * * *




 屋上にて


「ゴ、ゴメン、雪沙さん。こんな外で昼ごはんなんて……。ウチの食堂の混み具合をナメてたよ」


「いーのいーの、ココってミヤっちのお気に入りの場所なんでしょ? そーいうの教えてくれて、逆に嬉しいよー。うーん、風が気持ちイイね〜」


 なんて良い娘なんだ。天使じゃん。もうメッチャ可愛い。


 雪沙さんは大きく伸びをすると、何の躊躇いもなくぺたんと地べたに女の子座りをした。

 持ってきた弁当箱を太ももの上で楽しそうに広げている。時折スカートの裾を掴んで引っ張る仕草とか、もうメッチャ可愛い。


「なに見てんの? ミヤっち。こっちおいで」


 雪沙さんは僕を上目遣いで見つめて、隣のスペースを広げた掌でペシペシ叩いた。もうメッチャ可愛い。


「もっ、もちろん!」


 本当は端っこの方のちょっとした出っ張りに座ろうと思ったのだが、今の僕にはこの地べたこそが最高の特等席だ。


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