第5話/ちぐはぐな心
ええい面倒臭い、これでも喰らえ。
俺は右の掌をミノタウロスの顔に向けた。
「バーニングフレイム!」
そう叫ぶと掌に魔法陣が浮かび上がった。その中心から紅蓮の炎が吹き出し、ミノタウロスの顔を焼く。怯んだ隙に俺は奴の手から離れた。
「グググ……炎ヲ出セルノハアノ狼ダケジャナカッタノカ……。人間ノオ前ニモ受ケ継ガレテイタトハ」
至近距離からの会心のバーニングフレイムを喰らってなお平気そうである。
大抵の奴等はこれで倒せるんだが。中々の強敵だな。
俺は持ち前の瞬発力でミノタウロスとの間合いを一瞬で詰めた。
驚いた顔をしてこっちを見る奴に俺は不気味な笑みで応える。
「フレイムナックル!」
炎を宿した右手で渾身のアッパーカットを決めた。
宙を舞うミノタウロス。体勢を整えて右手に全魔力を集中させる。魔法陣がキュィィィと音を立てた。
「フレイムキャノン!」
魔法陣から解き放たれた紅い炎がミノタウロスを包み込んだ。
殺った……!
ふうっとため息をつき汚れたスクールバッグをパンパンと払う。さて、帰るか。
帰ろうと歩を進めようとしたが、こちらに向かってけたたましい音を立てながら自転車がやって来た。俺は運転手を見て、驚愕した。
「な……桃瀬⁉︎ 後を追っていたのか? 何で?」
何でお前を傷つけた俺みたいな奴の事をここまで。
「何でって……。それは聞きたい事があるから」
そう言って桃瀬は自転車から降りた。
「ねぇ灰、教えて。何であんたは私を避けるの? 何で私の事を見てくれないの? 幼稚園の頃から一緒にいるのに何で私との間に壁を作るの?」
「それは……それはお前を」
守りたかったから。
友達として、それ以上の関係として。
戦いに巻き込まれて危ない目に遭ってほしくなかったから。
「ねぇ……教えてよ……」
声が少し震えている。俺にそっけない態度を取られ続けて相当悲しかったのだろう。いつもは見せない桃瀬の姿に俺は戸惑った。
誰も戦いに巻き込みたくなかったから他人と関わらないようにして来た。
近寄って来た奴にはわざと冷たくした。
それでも桃瀬はいつも俺のそばにいた。
冷たくされるのが嫌なら俺なんて放っておいておけば良かったのに。