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第6話/初体験

 

「あれ、どーしたのみんな? もうクラスのみんな行っちゃったよ?」


 ふと、後ろで声がした。その声は雪沙か。辺りを見渡すと、なんと教室には俺達しか残っていなかった。

 ヤケに静かだと思ったら、そういう事だったのか。


 雪沙は、謎のキャラクターが印刷してされたクリアファイルから時間割表を取り出した。


「1時間目は、なになに……家庭科? 家庭科室ってどこ? ……ミヤっち、連れてって!」


 そう言うと雪沙は女友達にそうするように、疾風宮の腕に自分の腕を絡めた。


「ふぁっ! ちょ、ちょっと……」


 疾風宮は最初こそ驚いたものの、自分の置かれた状況を冷静に把握したらしく、今は見る影もなくデレデレしている。


「何? 恥ずかしいの?」


「 すごく……恥ずかしい」


「クス、可愛い。じゃ、しゅっぱ〜つ!」


「あっ、走らないでよ」


 雪沙は、疾風宮を連れて家庭科室に駆けて行った。


「……何だあいつら」


 誰もいない教室に俺の溜め息が虚しく響いた。


「灰、私達も行こ?」


 いつの間にか教科書を用意した桃瀬が、俺を待っていた。


「そーだな」




 * * *




 廊下に出ると、疾風宮と雪沙の後ろ姿が小さく見えた。でもお前らに言いたい。


 腕組んでると走りにくくないか?


「なんかあいつら意外と良いコンビじゃね? まあ、飼い主とペットみたいだけどさ」


 俺は、右を歩く桃瀬に冗談めかして笑いかけた。


「……」


 俺の冗談に答えることなく、桃瀬は前を走って行ったバカップル……おっと、疾風宮と雪沙をぼんやりと見ていた。無視された。


 ……このままだと悲しい人になってしまう。表現を変えてみよう。


 へんじがない。ただのしかばねのようだ。


 悲しい。


「ったく、無視するなうわっ!」


 桃瀬が、俺の右腕に左腕を絡めてきた。


 ……本人は腕を組んでいるつもりなんだろうが、お前それ肘の関節極めてるからね。

 両腕で俺の右腕を蛇の如くホールドして、肘の可動域じゃない方に力の限り引っ張っている。君は俺の肘を壊す気かな?


 あと、発展途上とは言えそんなに身体を密着されるとお年頃の男の子には刺激が強すぎる気がするんですけど。


 もう少し刺激を楽しんでいたい不埒な自分もいるが、俺の肘からミシミシと怪音が聞こえてきたのでこの辺でやめておく。


 俺は、肘が逝きかけている事と腕に色々当たっている事を顔と声に出さないようにクールに、あくまでクールに右を向いた。


「……どうした?」


 クール過ぎたか。

 桃瀬は俺が怒っているとカン違いして、慌てて手を放してしまった。


 バツが悪そうにそっぽを向き、手を胸の前で竦めている。


「あ、ごめんね……。嫌だった? あの、ホラ、腕組むやつ。ちょっと1回やってみたくなってさ」


「お前……腕組むの下手クソ過ぎだろ。もっとこう……添える感じで」


「うるさい! しょーがないでしょ! その……こういう事するの灰が初めてだったんだから……」


 桃瀬は俺から目を逸らし、唇を尖らせて俯いた。

 何その衝撃告白。


「へー、意外。お前色んな奴と付き合ってそうなのに」


「わっ、私は今まで誰とも……!コホン、そんな事より私達も急ごう!遅れるよ!」


「そーだった、やべ! 」

 俺達は家庭科室へ急いだ。


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