第1話/洗面所の不毛な攻防
弟――灰との接し方に悩む姉、銀。
でも、そんな悩みをよそに灰のクラスに転校生がやって来て……。
実際姉でも妹でも、ただ性格が良くて可愛くて彼氏とかいなければどっちでもいいのです。
いや、何が「ただ」なんでしょう。馬鹿なんでしょうか、僕は。性格が良くて可愛くて彼氏とかいない女の子なんて存在しないでしょ。特に最後。
いや、いっそ極度のブラコン(自重)
と、三人兄弟の真ん中で年上の卑怯さと年下の面倒臭さを知っている僕は言うのでした。
少女は、道を歩いていた。
初めての道を、おぼつかなく、ふらふらと。
途中、同じ制服を着た生徒達に追い抜かされるも、彼女はそれも物珍しそうに眺める。
「へぇ、ここかぁ」
校門をくぐると両脇に桜の木が立ち並んでいた。あと数週間入るのが早ければ一面に満開の桜が咲いていただろうが、4月も終盤に差し掛かった今、花びらは無残に散って地面に落ちて干からびている。
そんな光景を残念に思いながら、少女は年相応に成長した胸に手を当て、深呼吸した。
鼓動の高鳴りを、上手くやれるかの緊張を、鎮めるように。
すぅ、はぁ。
緊張がほぐれ、今度は期待の込もったワクワクドキドキした感情が少女の心で膨らんだ。
「よし、頑張ろ」
少女はそう呟くと、笑顔で桜道の中央にそびえ立つ校舎に駆けて行った。
* * *
朝食を済ませて身支度をしようと思ったら例によってパジャマ姿の姉貴が洗面所を占領し、髪をいじっていた。
いつもの事だが、ダルい。
俺は仕方なく姉貴に洗面所を代わるように呼びかけた。
「姉貴、そろそろ洗面所代われよ。歯、磨きたいんだけど」
「知らねーよ。待て」
「......」
「姉貴ィ、いい加減洗面所代われよー。髪いじるのまだ終わらないのかよー。歯、磨きたいんだけどー」
「知らねーよ。待て」
「テメッ、この野郎! その台詞を何回言えば気が済むんだ! かれこれ30分も髪いじってんじゃねーよ!しかも全然変わってないし!」
「変わってるわ、この馬鹿! 貴様の目は節穴か! それにどーせ、あんた外じゃ一言も喋らないんだから歯なんて磨かなくても別に良いでしょ!」
「良くねーよ! なんて酷い事言うんだ! 少しは俺の人権を尊重しろ! 喋らなくても歯ぐらい磨かせろよ、って言うか普通に喋ってるわ!」
「嘘吐け」
「うっ、嘘じゃねーよ! って言うか論点そこじゃねーよ! さっさと代われ!」
「あっ、やめろこの馬鹿! 触るな! 変態!」
これ以上話しても時間の無駄と判断した俺は、抵抗する姉貴の肩を掴んで無理矢理洗面所の外へ追いやった。
いつもに増してぶすっとしてしまった顔を洗い、歯を磨く。
はぁ、スッキリした。
洗面所を出ると、姉貴が仏頂面で腕を組み、俺を待っていた。
「……死ね」
すれ違う瞬間、確かにそう聞こえた。
何でそこまで言われなきゃならねーんだ。そう思ったが、言い返すだけ時間の無駄だ。
今日も遅刻ギリギリコースだからな。誰かさんのせいで。
全く。仲良くやれないモンかねぇ……。
…………。
やれねぇな。




