第19話/悪魔の選択
「じゃ、また明日ね」
「ああ。気を付けろよ」
疾風宮と桃瀬とも別れ、1人になる俺。
騒がしかった帰り道が急に静かになった。
『やっと静かになったな』
そうだな。って誰だよおい!ジジイか!クソ、ビビらせやがって!
『なんじゃ、文句あるのか』
『人の思考を勝手に読むな! この変態!』
『誰が変態じゃこの助平! おい! こっち見ろおい!』
何の気なしに横を向いたらやたらと小さい爺さんが俺を見上げていた。怖えーよ。
『うわ! 何実体化してやがる!』
『お前が調子に乗って闇の魔法をバンバン使いまくったからじゃ。これで当分エネルギー不足に困る心配はない。御苦労じゃったな、クソガキ』
不本意ながら俺はジジイのエネルギー問題に貢献してしまったみたいだ。
いつもだったらこのやり場のない怒りを、ジジイをブン殴ることで解消したかもしれないが、今はそんな気になれない。
『ジジイ、教えてくれ。俺の身に何が起こっているんだ? 俺はどうなっちまうんだ? まさか死ぬ……なんて事ないよな? なぁ、ないよな?』
俺はジジイを問い詰めた。少しの間とは言え死の淵を彷徨った俺は「死」に対する恐怖が、強く、そして生々しく脳内にへばりついていた。
ジジイはそんな俺の気持ちを透かして見た様に(実際見てるのだが)俺に応えた。
『チッ。そんな真剣な、つまんない目で儂を見るんじゃない。ふざける気がすっかり失せちゃったじゃねーか』
* * *
『単刀直入に言おう。今のお前は、既に魂の7割近くが闇に侵蝕されている。お前らの言葉で言うと“まじやばい”状態じゃ』
ジジイが口火を切った。割と深刻な話なのに心なしか声が嬉しそうなのは気のせいだろうか?俺の被害妄想だとでも言うのだろうか?
『7割⁉︎ そ、それじゃあ俺はどうすれば……』
ジジイは慌てふためく俺を一瞥し、フンと鼻を鳴らした。
『何を柄になく焦っとるのじゃ。簡単な話じゃないか。闇の魔法を使わなければいいだけの事じゃ』
『でも……そんな事』
『出来ない。そう言いたいんじゃろ? 確かに出来ん。怪物共のレベルも上がって来てるからな。とは言え闇の魔法を使わないと怪物を止められない。そこでじゃ』
『まさか』
『そう。【自分を殺して他人を救う】のか【他人を殺して自分を救う】のか。究極の選択を迫られる訳じゃ』
『そんな……』
甘く見過ぎていた。
闇の魔法は俺を強くしてくれた救いの神なんかではなかった。
俺の体を蝕み、破滅へと導く悪魔だ。
『それでもお前は闇の魔法を使うじゃろう。儂に似て、馬鹿じゃからな。……儂の、いや皆の為に』
『ああ。……と、言うとでも思ったか! 使わねーわ! 俺まだ高校生だからな! 死にたくねーよ! 炎の魔法鍛えるわ!』
ジジイに脳内で怒鳴りつけ、勝手に立てた死亡フラグを全力でへし折る。
『ケッ、この腰抜けヘタレ野郎め』
『何で? 何でそうなるの?』
ジジイと騒がしく口喧嘩しながら俺達は家路に急いだ。
その路はいつもより僅かに、ほんの僅かに暖かかった。
侵蝕する暗黒 完




