第4話/獣と獣
声の主はここから二キロ先の廃工場。走って三分といったところか。
目的地に向かう途中、泣きそうだった桃瀬の顔がふと浮かんだ。
――別の言葉を掛けるべきだったんじゃないか?
――あそこまで言う必要は無かったんじゃないか?
俺は自分の口下手さに苛立ち、思わず舌打ちをした。
もう少し口が上手かったら桃瀬を傷つける事も無かったのに。
廃工場が見えて来た。
牛の様な顔にごつい図体。こいつは確かミノタウロスだ。俺はこの怪物に近づき、警告した。
「ミノタウロス! ここはお前のいるべき場所じゃない! 現世の人間に見られる前に大人しく魔界に帰れ! 」
ミノタウロスは俺の方を振り向いた。
「何ノ用ダ、人間。イヤ、コノ闇ノ気配ハ……モシヤ狼男ノ子孫カ? 」
「ご名答。やっぱり怪物にはすぐバレるんだよな、俺の正体」
「狼男、カ……。オ前サントコノオヤジニ、俺達ノ一族ハズイブン世話ニナッタカラナ。タップリオ礼、シテヤルヨ」
クックックッと下品に笑うとミノタウロスは斧を取り出した。
「チッ、やっぱり戦うしかないのか」
俺も我流の戦闘態勢をとる。獣の様に重心を低く構える。
先に動いたのはミノタウロスだ。すごいスピードで斧を振り回す。俺は生まれつきの動体視力と獣の反射神経で紙一重で躱していく。斧を軽々ブン回すとはさすが脳筋。
「チョコマカト動キヤガッテ。人間ノクセニスバシコイ奴メ」
何も考えずに武器を振り回して来るので避けるのは簡単だ。
全く、隙だらけだぜ。
俺はこいつの背後に回り込み、流れるような回し蹴りを決めた。命中。
ミノタウロスは三メートルほど吹っ飛んだ。
仕留めにかかろうとミノタウロスの元へ向かうと、土煙の中で影が揺らいだ。
まだ動けるのかこいつ。
と、影が急にこっちに来た。
しまった不意打ちか。
気付いた時にはミノタウロスは既に俺を捕らえていた。
「人間ノガキガ手間カケサセヤガッテ」
ミノタウロスは俺の首根っこを掴んで顔の高さまで持ち上げた。抵抗するが離れない。