第9話/悪戯猫と心の鎖
思えば、俺はいつも独りだった。朝も、休み時間も、飯を食べる時も。
それが当たり前だった。
人の温もりを感じたことがなかった俺は「孤独」や「ひとりぼっち」の意味が分からなかった。
だけどこの数日、疾風宮と行動を共にして、俺は感じた事のない「人の温もり」を感じてしまった。
そして今、温もりが手から滑り落ちて、昔なら当たり前過ぎて感じすらしなかった「孤独感」が俺の中に渦巻いている。
「ひとりぼっちが怖いから ハンパに成長してきた」
ふと、好きな歌の一節を思い出した。
確かにな……。
俺はひとりの寂しさを感じないように、無意識のうちに感情を抑制してハンパに生きてきたのかも知れない。
まあでも今更そんな事に気付いてもなんにもならないんだろうけどね。
と、考えていると、遠くのテーブルから大きな笑い声が聞こえてきた。
久し振りに自分と向き合っていた所で神経を逆撫でされた俺は、うるせー黙れと言わんばかりにテーブルの方を見やった。ん、うちのクラスの女子どもか。う、桃瀬がいる。ま、当たり前か。
昔から桃瀬は気付いたらクラスの中心にいた。どんなに知らない人だらけでも笑顔で近付きすぐに友達を作り、皆と仲が良かった。
まぁ俺なんて「皆」の中の友達以外のその他大勢の中の一人でしかないんだろうけど。
桃瀬も、俺といる時より楽しそうだ。
だったらこんな無愛想な根暗なんて放っておいて気の合う女友達とつるめば良いのに。
変な奴だ。
ふと、桃瀬と目が合いそうになり、慌てて逸らす。
なぜ逸らしたかは……分からない。
* * *
あと5分で昼休みが終わる。そろそろ教室に戻るか。
俺は残ったコーヒーをいろんな想いと一緒に飲み干し、席を立った。
もういいや、難しい事を考えるのはやめ
「わっ‼︎」
突然耳元で叫ばれ肩を「バンッ!」と叩かれた俺は柄になく首をすくめて「うわぁお!」と変な声を出してしまった。
咳払いをして振り返ると、肩を叩いた両手をすくめて猫みたいになっている疾風宮が、イタズラの成功した子供のような顔で俺を見ていた。
「お前か……」
「ふふっ、どう? 驚いた?」
邪気とか殺気とか負の気配には敏感なんだがな。コイツの発する素直な正の気配はどうしても読めない。
一瞬イラっときたが、疾風宮の無邪気な笑顔を見るとそんな気持ちもしぼんでくる。
人の温もり、ねぇ……。
もし俺がこいつを本当に大切に思うのならば、俺は、戦いに巻き込まないようこいつから遠ざかる必要がある。
だがそれが本当にこいつの、と言うか俺にとってベストな方法とはとても思えないし、少なくとも疾風宮には魔法の力がある。自分の身くらい自分で守れるだろう。
それに、今はこれが心地良い。
「よし、教室戻るか」
俺は近くにあったゴミ箱に缶コーヒーの空き缶を捨てて、疾風宮と一緒に食堂を出た。
もういいや、難しい事を考えるのはやめよう。ただでさえ5時間目は難しい物理なのに。
THE BLUE HEARTSの「チェインギャング」と言う歌です。
歌詞が刺さりまくるので興味がある方や暇な方は是非一度聴いてみて下さい。




