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第4話/今時食パン咥えながら学校行く奴なんていねぇよ

 

「おはよう……」


  制服に着替えた俺はいつになくローテンションにリビングまで足を運んだ。


  あれからあの爺さんは『クソ、やはり現世に実体化するにはまだ力が足りないか』とかなんとか言った後、俺の机に置いてあった闇の魔法石に吸い込まれていった。


 どうやら初代狼男の肩書きは本物らしい。




「おはよう灰。遅いじゃないか」

  コーヒーカップを片手に新聞を読みながら俺に返事をしたこの中年が親父ーー狼月 そうだ。


  怪物退治の現役を引退した今となってはただの冴えない係長だが、かつて3種族もの悪魔を絶滅させ、「悪魔狩り」と人間からも怪物からも恐れられた彼方あちらの世界で知らない者のいない、とんでもない化け物なのである。


  あと、俺に魔法を教えた師匠なのである。


「灰、あんた時間ヤバいよ。あーホラ、食パンでも咥えてさっさと学校行きな!」

「カーチャン、俺は少女漫画の主人公かよ……。大丈夫だって、まだ七分もあるじゃないか」

  俺を少女漫画の主人公にしようとしたこの人物こそがお袋の狼月 みのりである。


 方正謹厳にして才色兼備。一流大学を卒業し、大型企業に期待のエリートとして入社した人生スーパーイージーモードの勝ち組だが、何を血迷ったか狼男とかいう人外と結婚した紛れもない奇人なのである。


  俺は席に着くとコーヒーを注ぎ、食パンを頬張った。何の味付けもない事に気づきマーガリンを塗った。


「灰、今朝はやけに騒がしかったじゃないか。何かあったのか?」

  いつもは口数の少ない親父が1番対応に困る質問をした。俺は食パンを喉に詰まらせ悶絶しかけたが、2、3回咳き込み平静を保つ。


 何て答えれば良いんだ、これ……。


  動揺を隠せない俺の様子から、親父が推測した答えは、


「もしやまた怖い夢でも見たのか? 」


  違う違う。嘘を考える手間は省けたがこんな誤解のされ方は嫌だ。


「いや親父、違」


「あっはは、そんな事あったねー。ドタドタ騒がしいと思ったら『かーちゃーん! 」って泣きながら飛びついて来てさ、お化けが、お化けがー、って」


「う、カーチャンまで。…いつまでそんな事覚えてるんだよ」



 言っとくけどそれ五歳くらいの時のことだからな。


『また』って言うほど最近のことじゃないからな。



「……ぷっ」

「わっ……笑うな姉貴! 」

  静かにスープを飲んでいた姉貴が堪えかねたように吹き出した。



 恥ずかしさで真っ赤になってリビングを見渡すが、姉貴だけでなく親父もカーチャンもにやにやした目で俺を見ている。


  クソ、みんな敵だ。


  俺は残った食パンを口に詰め込み、コーヒーで一気に飲み込んだ。


 からかわれて涙目になった顔を急いで洗い、最高速度で歯を磨く。ミント味がきつくてまた涙目になってしまったが、涙を拭き、部屋からスクールバッグをひったくった。


「行ってきます‼︎」


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