第1話/闇夜の掃除屋
副作用を恐れながらも闇の魔法を使いこなし、すっかり自分のモノにする狼月。
だがそんな彼の身体にある変化が訪れて……。
日常回です。戦闘シーンもあります。
(大いなる矛盾)
漆黒の闇夜に浮かぶ月ひとつ。闇に呑まれかけていながら微かに瞬く星々を見て俺は溜め息をついた。別に感傷に浸っている訳ではない。
「ったく、今からゲームでモンスターでも狩ろうと思ってたのに現実でモンスター狩る羽目に陥るとはな……。ついてねーぜ」
黒のプルオーバーパーカーを着て、下もやはり黒のジャージを穿いた俺――狼月 灰――は夕食中に邪気を感じた地点へと急いだ。
「一体どーなってやがるんだ、この街、いや、この世界は……」
昔は怪物なんて1年に2、3回出れば多い方だったのに最近、明らかに数が増えている。この数日で少なくとも10匹は殺った。
これが、「トライブ・ディバイダー」の影響……か。
迷惑な話だ。
* * *
人のいない、夜の公園。そこにたむろする明らかに人ではない集団。
確かに首から下は人間なのだが、頭はまごう事なき犬のそれだ。
犬頭人か。生で見るのは初めてだな。
ラッキー。
俺はポケットを探り懐中電灯を出して、奴等の顔めがけて光を照らした。
「おうおうワンちゃん達、こんな時間まで公園でうだついてんじゃねえぞコラ。さっさと犬小屋帰んな」
「ウゥッ、誰ダ! ヤメロ眩シイ!」
犬頭人は腕をブンブン振って光を避けようとする。予想以上のリアクションが返ってきたので少し笑ったが、怒りに満ちた目で俺を睨んでくる奴等を見て慌てて懐中電灯をしまう。
「人間ガ……舐メヤガッテ……!」
俺を睨んだ短気な一匹が俺に飛びかかり拳を繰り出した。俺はそれを左手で受け止め、拳を握り潰す。
「黙れ。闇の魔法石に眠りし狼の魂よ。我に今一度その力、解き放て。『ダークネスフレイム』」
左手が暗く光り、闇の光が犬頭人を包みこんだ。地獄の業火に身を滅ぼされる罪人の如く、叫ぶ間も与えず闇の炎が犬頭人を焼き尽くしていく。
消し炭同然となった犬頭人は砂となって崩れ落ちた。
あの日……ミノタウロスに初めて闇の魔法を使ったあの日から、身体能力が凄い速度で上がっている気がする。これも多分闇の魔法の“力”なんだろうな。
「オイ、何処見テヤガル」
おやおや……。考え事をしている間に犬頭人達が手に棍棒やら金属バットやらを持って俺を取り囲んでいるではないか。
その目はどれも殺気立っている。仲間を殺されてるから当たり前か。
父の魔道書によると群れて行動するが、個々の戦闘力もかなり高いらしい。
ふっ、面白い。




