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第11話/自己紹介で誰が何を言ったかなんて正直覚えてない


「お、おい……そろそろ休めよ……」


 後ろから心配したような灰君の声が聞こえた。制服の袖を少しずらし、腕時計を見る。練習を始めてから三十分以上が経過した事をとっくに五時を回った針が教えている。


 集中すると時間を忘れる癖、なんとかしなきゃ。


 そろそろ休むか……。



「あれ、黒井さんは?」


「時空の揺らぎがどうのこうのでとっくに帰った」



 手頃な切り株に腰掛けている灰君にならって、隣の切り株に座る。


「そう言えばお前自己紹介の時趣味は手品とか言ってたよな」


「そうだよ。よく覚えてるね」


 僕は魔法の杖として使っていた木の棒をペンサイズに折り、土を払う。

 木の棒の両端を持ち、灰君に見せる。二、三度頷く灰君。


 その目はいつも見せる他人を拒否した乾ききったものではなく、大好きなアニメ番組が待ちきれない、光を宿した少年のような目である。



 僕はその様子に満足して頷き、上に向かって木の棒を投げるふりをする。


 反射的に上を向いた灰君。だが棒が落ちてくることはない。


 タネは驚く程単純だが、練習次第で幾らでもそれっぽく見える。


 五秒ほどして、棒が落ちてこないと分かった灰君が視線を戻し、照れたように頭を掻く。



「スゲーな疾風宮! 騙されちまったぜ」


 見事に引っかかってくれた。嬉しいな。


「フフ、そんなに喜ばれるとは思わなかったよ」


「いやいや、普通に上手いと思うぜ。もっと自信持てよ」



 なぜこの程度でそこまで喜ばれるのかな?と思ったが、これが普通の反応なんだ、と納得する。




 僕が求めていた、普通の……。


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