第10話/ひみつ道具じゃないんだから……
さて、と……。裏山に来たのは良いんだけど、
「灰君、僕達はもの凄い壁にぶつかってしまったよ」
「ああ……そうだな……俺の場合生まれつきだからなぁ……」
「魔法って、どうやって出すんだ?」
こんな事になるならちゃんと黒井さんの話を聞いておくんだった。魔法について何も知らないのに風の魔法石なんか渡されても持て余すだけだ。
困った。
すると、僕達の後ろの木の葉がざわ……と揺れた。
「何かお困りかな? この私で良ければ質問に答えてあげよう」
後ろを振り返る。そこには、黒井さんが立っていた。
「うわっ‼︎ いつの間に……何でいるの⁉︎」
僕の問いに、黒井さんは哀しそうに微笑んだ。
「私のこちらの世界での名前は黒井ではなく黒岩なのだが……まあ些細な問題か。あと、『何でいるの⁉︎』って結構傷付くからやめていただきたい」
はーい。思ったよりメンタルが繊細なんですね。
「えっと誰だっけ黒い人、こいつに魔法の出し方教えてやって下さい」
「ふむ、私の名前は黒い人ではなく黒岩なのだが……まあ構わん。名前など個人を識別する為の記号でしかないのだからな。ま、そんな話はどうでもいいとして本題に入るか」
名前に対する割とどうでもいい自論を展開してから、本題に入る。
「魔法とは曰く、念じる力の強さによってその威力が変わる。簡単に言うと、自分が魔法を使っている所を強くイメージするんだ。これは風の魔法石だから風系統のものをね」
ここまで一気に喋り、ふぅ、と息をつく。
そして黒岩さんは続けた。
「『何の魔法か? どんな効果か周りにどんな影響を与えるか?』これを出来るだけ具体的にイメージして、魔力を集中させる。魔術師ではない君の場合は魔法石を強く握れば効果は同じ。最初のうちは微小だが練習を積めばそれこそ怪物に対抗出来る位の武器となるだろう」
よし、強く念じるのか。風の魔法……そうだ!
「じゃあ、敵の目の前で突風を起こして吹き飛ばす魔法にしよう」
「おお、良いアイデアだな!」
「技の名前は“ふきとばしウィンド‼︎”」
「ダサい! 却下! 『ガストブロー』にしろ‼︎」
渾身のふきとばしウィンドを一蹴されて少し心が折れそうになった、
と言うか折れた。
まあいい。
僕は両手を指揮者の様に振った。魔法発動のアクションだ。
「ガストブロー!」
すると、遠くの方からそよ風が吹いてきた。
……おお、これは。
「ただの風だな」
* * *
それから僕はまだ見ぬガストブローを目指してただひたすら魔法を唱え続けた。
魔法発動のビジョンを変えてみたり、木の枝を魔法の杖にしてみたり色々と試行錯誤を繰り返してみた。




