第8話/喧嘩するほどなんとやら
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、灰君がお盆にコーヒーとココアを乗せて帰ってきた。
「おらお前の希望通り……お、姉貴帰ってたのか」
すると姉貴さんはずいっと灰君に歩み寄り、小声だが物凄い剣幕で灰君に食ってかかった。
「ちょ、誰よあの子! 聞いてないんだけど⁉︎ て言うかあたしの部屋に勝手に人入れないでよっていつも言ってんじゃん‼︎」
だが灰君は大して驚かず反論した。
「知らねーよそんなの、ここは姉貴だけの部屋じゃなくて俺の部屋でもあるんだからな! いちいちうっせーんだよ、いつまでも餓鬼扱いすんな‼︎」
姉弟ゲンカが始まってしまった。気まずい事に変わりはないが、こうして喧嘩する相手すらいないひとりっ子としては、少しだけ羨ましかったりする。
「やってらんねーよ! 何でこんな事言われなきゃいけねーんだよ‼︎」
「こっちの台詞だ、馬鹿! 今日新歓コンパあるから夕飯要らないからな‼︎ じゃ‼︎」
そう言うと姉貴さんは、バッグを掴んで部屋から出ていった。
「……いつもこんな感じなの?」
「ま、まぁな。大体こんなだ」
いつもクールであまり感情を表に出さない灰君の人間らしい一面を見ることが出来た。意外と親近感がわく。
「あ、そうだ。お前姉貴と会話した? 無愛想だっただろ。あのなあ」
灰君はばつが悪そうに斜め下を向いた。
「ウチの姉貴は昔からあんなんでな。初対面だったり心を開いてない人と話す時どうしても威圧的になるらしいんだわ。わざとじゃないし本人も自覚してるからまぁそこら辺は分かってやってくれや。もし不快な思いしたなら俺の方からも謝るからさ」
謝ると言っておきながらむしろ胸を張っている様に見える所は流石灰君と言うべきだが、さっきまでとの口喧嘩からは想像もつかない姉をかばう態度に、僕は微笑ましい姉弟愛を感じた。
「フフ、口ではあんな事言っておきながら結局はお姉さんが好きなんだね」
「はぁ⁉︎ な訳ねーだろあんな内弁慶野郎‼︎」
* * *
「ふぇくしょん‼︎」
「何〜、どうしたの銀ちゃん。風邪?」
「いや、何でもない。軽い花粉症だ」
誰かあたしの噂してるな……と馬鹿な弟の顔を思い浮かべながら中学校からの付き合いの咲良に応える。
はぁ……いくら咲良に頼まれたからと言っても、サークルの新歓コンパなんて行くんじゃなかった。駅への道の一歩一歩が重い。
「弟君元気? 最後に会ったのが確か三、四年前だったけどその時からイケメンだったよね。あっ、まだ弟君に夜ご飯作ってもらってるの? そろそろ自分で作れるようにならないとダメだよ?」
「あたしもやれる事はやってるよ。箸並べたりとか……箸並べたり」
灰がイケメンかどうかはさておき、母がいない日とかに晩飯を作ってくれるのはかなり助かっているのは事実だ。
「はーぁ、良いなー銀ちゃんは。もし風邪とか引いても、弟君が看病してくれるんでしょ? ウチには二コ上のクソ兄貴しか居ないからいつも放っておかれてるんだよね」
家は両親共働きで、夜遅くまで帰って来ない日もあるから片方が風邪を引いたらもう片方が世話をする、必然的で当たり前だと思っていたが、どうもそんな事はないらしい。
「確かに、あたしの弟は思ったよりいいヤツなのかもな」
「ふふん、前会った時は口喧嘩ばっかりしてたけど、やっぱり弟君の事が好きなんだね」
「はぁ⁉︎ な訳ねーだろあんな根暗中二野郎‼︎」
* * *
「ふぇくしょん‼︎」




