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第13話/フォーリンエンジェル

 

「そっかー、バレちゃったか」


 黒岩は間延びした口調で言い、「ふぅー」と長いため息を吐く。俺の知ってる黒岩さんじゃない。姿形は同じだが表情や仕草が別人のように変わってしまった。


「バレたなら仕方ない……そうだよ。君のお姉さんを殺したのは私だ。彼女は私の計画には用済みだからね、サクッと始末して魔法石を頂戴してきた」


「……何だ、計画って。俺達への復讐か?」


 醜い笑顔を浮かべる黒岩をベリアルは睥睨する。黒岩はちゃらけた様子でチッチッと指を振った。


「お前たちを根絶やしにするのは計画の余興に過ぎない。私はそんなチンケな男ではないのさ。私の計画とは、即ち!」


 黒岩は満面の笑みで拳を掲げる。


「一に、魔法石の力を封印して異世界門トライブ・ディバイダーを開放する! 二に、人間界と魔界を融合させ、全ての民衆を結集させた【ルシファー軍】を編成する! 三に、それで私の全てを奪った魔窟・天界を滅ぼし、私自身が憎き神を殺し……そして、私は神に成る……」


 両手を広げて天を見上げ、恍惚とした表情を浮かべるルシファー。……俺はまだ、これが嘘であって欲しいと思ってしまっている。でも、家族を亡くし、信じていた人には裏切られた現実は現実のまま。そんなのは俺が一番よく分かっている。


「そして、計画の実現に不可欠なもの……それは私自身の完全な肉体!」


 そう叫んでルシファーはズボンのポケットに手を入れ、スマートフォン位の大きさの黒い石版を取り出した。


「チッ……マジかよ」


 ベリアルは何やら勘付いたらしく忌々しそうに舌打ちする。その反応を楽しむように、ルシファーは石版を弄んだ。


「これを体内に取り込むと私の能力を抑圧している封印魔道具が解除される、とフォラスとか言う研究員に教えてもらったよ。何しろ私の【魔眼】を前に嘘を吐ける者は誰もいないからねぇ」


 真実を語らせる能力、か。相変わらず何でもアリだな……などと思っていると、ベリアルは突然焦り出した。ルシファーに向かって走り出して手を伸ばす。


「やめろ! その石版から手を放せ!」


 その叫びも虚しく、ルシファーは石版を自分の左胸に突き刺す。それはズブズブと独りでにルシファーの胸に呑み込まれていき、暗黒の光が渦を巻く。


「グオッ……ゥオァアアアアアアアアア!」


 悍ましい叫び声と共に、百七、八十センチほどだった身長は二メートル以上に伸び、中肉中背だった全身の筋肉は肥大する。黒スーツは筋肉の肥大化により裂けてしまったらしく、まともに服を着られていない。


「フウ……やっぱり元の身体が一番しっくりくるな。どれ、手始めに準備体操がてらお前らを倒しておくか」


 そう言って俺の前に立ちはだかる筋骨隆々の大男は、黒岩さんとは似ても似つかない怪物だった。


 あまりの出来事に呆然とする俺に対して、ベリアルは冷や汗を流して青い顔をする。よく分からないが相当ヤバい事だけは察せた。


「冗談じゃない……力を取り戻した完全体のルシファーと闘り合うなんて、死にに行くようなモンだぞ」


 どうやら俺は目覚めさせてはいけないモノを目覚めさせてしまったらしい。……固まっていた思考が急に高速展開する。


 ……俺の、俺達の魔法石を賭けた闘いは全てルシファーの計画の一部。俺達は良いように奴の手の上で転がされていたに過ぎなかった。世界を救う使命感や、闘っている時の激情も、全ては奴が作りだした偽物。


 俺達はこんな奴の計画の為に命を賭して闘ってきたのか……。


 何とも言えない空虚さを感じていると、ルシファーはおもむろに魔力を集中させた。


「さぁて、手始めに復活祝いの祝砲だ!」


 ルシファーの手からキラッとした光が放たれる。一瞬で地を滑りベリアルに達したかと思うと、爆発魔法が光の軌道をなぞって発動する。


 ――ドドドドドドドドガッ!


「グアアアアアアッ!」


 爆発魔法が直撃し、叫びと共に吹き飛ぶベリアル。あのベリアルにこれほどのダメージを与えるとは……確かに死にに行くようなものだな。


「次はお前だ、狼月君」


 ルシファーは俺の耳元で囁く。


 ――速い!


 胸に平手突きを喰らい、そこから火焔砲を撃ち込まれる。


「が…………」


 俺はなす術なく吹き飛ばされる。ドサリと転がり血を吐いていると、同じように転がっているベリアルと目が合った。


「……クク、情けないな狼男」


「全身ボロボロのお前が言えた口かよ……」


「仲間に裏切られた気分はどうだ? オイ」


「そんな事言ってる場合じゃねえだろ……このままじゃ俺達ルシファーに殺られるぞ」


 言いながらルシファーの方を向くと、奴はこっちを見ながら余裕の笑みを浮かべていた。


「欠片も残さず焼いてやるよ……」


 そうして、俺達目掛けて極大の白い光を放つ。光が俺達を呑み込まんとする瞬間。


 ――ガギィィィィィン!


 それを防いだ、氷の壁。耐久度的にギリギリだったらしく光を防いだ直後に大音を立てて粉砕した。


暗黒砲(ダークネスキャノン)!」


 その間から、俺は渾身の暗黒砲を撃つ。ルシファーが咄嗟に飛び退いたせいで無駄に終わったが。


「ほう……驚いたな。お前らが手を組むとは」


 地面に降りて、ルシファーは驚いたように少し眉を動かす。それを合図に、俺とベリアルは同時に立ち上がった。なんの打ち合わせもしていないのに、同時に。


「あくまで一時的だがな。使えるモノはなんでも使うのが俺の流儀だ」


「立場や思想は違えど、アンタを倒すという目的は同じ……力を借りるぞ、ベリアル」


「足手まといにはなんなよ、クソガキ」


「んだとこの気障キザヶ谷ナル男」


 俺がベリアルを睨み付けると、奴も氷のような冷たい目でこっちを睨んできた。視線がぶつかり合い、バチバチと火花が散る。


「どこ見てんだ?」


 存在を忘れられてつまらなそうなルシファーが数十の光球を放つ。確認するまでもなく、当たれば即死。


「「うおおおおおおおおお!」」


 雄叫びを上げた俺達は、それらを全て避けつつ、氷でガードしつつルシファーの方に全力で疾走する。


 ――ドカァァァァン!


 後ろの方で地面に落ちた光球が次々と爆発していく中、退路が炎に包まれていく中、爆発になど見向きもせずに俺達は走り続ける。


「喰らえルシファアアアアアアア!」


 ベリアルは絶叫しながら氷魔法で地面を凍らせる。氷は俺達を避けながら高速で地面に広がり、ルシファーの足を氷漬けにした。


「何ッ⁉︎」


 一瞬の出来事に動揺するルシファー。ここに来て決定的な隙を見せた。


「ッハァ! 『ダークネスナックル』!」


 ベリアルより一足先に着いた俺は、ルシファーに飛び掛かり闇の拳を繰り出す。


「ぐふっ!」


 逃げられずに直撃したルシファーは、部屋の端の壁にまで叩きつけられる。


「……口ほどにも無え野郎だったな」


「まぁ八割方俺のおかげだけどな」


 一人呼吸を整えていると、いつの間にか隣に立っていたベリアルが口を挟んできた。


「あん? 自分がノロマ過ぎるからってヒトを悪く言うのはやめろよ?」


「俺の氷が無けりゃお前のへなちょこパンチなんてアイツに掠りもしなかっただろーな」


「俺のダークネスナックルをへなちょこパンチとは貴様許さんぞ。ルシファー倒したらまず先にお前倒してやる」


「こんなウゼェガキ俺も早く殺してえよ。だから……さっさと終わらせようぜ」


 俺とベリアルは闘志の込もった目でルシファーを睨み据える。……ここでも全く同じ行動をとってしまった。


 蜘蛛の巣状に割れた壁にもたれかかっているルシファーに歩き寄ると、ルシファーは呻き声とも笑い声ともつかない声を上げてぎこちなく立ち上がった。


「……私としたことがお前らの力を見誤っていたようだ。強い……強いよ! 最高だ! 私が()()を見せるに値する!」


 やはりルシファーは狂った笑みを浮かべる。


 ……ん?


「おいベリアル! 話が違うぞコラ! あれがルシファー完全体じゃなかったのかよ⁉︎」


「うるせえな俺も分かんねえよ! って事はアイツはまだ力を隠していたのか……」


 二人で呆然としていると、ルシファーは侮るような視線で解説を始めた。そこには、圧倒的な勝利への自信が含まれていた。


「あれはあくまでお前らサイズに合わせて闘う姿だ。そして、私の真の姿をかつて私の右腕だったお前が知らないのも無理はない。アレは、お前らに裏切られた後に覚醒したものだからな」


 そう言い、ルシファーは半歩退いて高く飛び上がった。全身が発光したかと思うと、次の瞬間その光は何倍にも膨張し、異形の化け物へと姿を変える。


【神と悪魔……その両方から捨てられた怒りと憎しみの炎が私を覚醒させた! 強くした! これが私の本気……! 死ね!】


長くなりました。

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