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第9話/獣と獣

 

 長い長い階段を上った先には。


「……思ったより早かったな」


 殺風景な舞踏場の真ん中でベリアルは仁王立ちしていた。犬歯を剥き出しにして笑う奴に、俺もニヤリと返す。


「よお、魔王の塔のラスボスさんよ」


 しかし妙なものである。お互い顔も名前も知っているし会った事もあるのに、こうして闘うのが初めてだなんて。


 などと考えていると、ベリアルはニヤニヤしながら俺の後ろの空間を見やる。


「お前たった独りで乗り込んできて、お仲間はどうした? 死んだのか?」


「そんな訳ねーだろ。あと、俺は『独り』じゃねえ。俺をここまで残す為に今なお戦っている仲間の想い、託された希望と一緒に俺はここにいるんだ」


 殆どヴラドの受け売りだが、つい口から出てしまった。こんな柄でもない台詞。


「はっ、お前アホかよ。つまり独りなんだろ」


 馬鹿にしたようにベリアルに一笑に付される。俺は何故かムカッときた。


「俺は独りじゃない! 仲間の想いを胸にここにいるんだ!」


「だからどうした? 『想い』なんて身勝手な希望の押し付けだろ。そんなもん足枷にはなるが間違ってもお前を助けちゃくれねえよ。――御託はいいから掛かって来い」


 ベリアルは冷笑し、クイと人差し指を曲げて挑発する。


「そこまで言うなら仕方ねえ……望み通り殺ってやらァ!」


 俺は地を蹴りベリアルに突進する。右腕に魔力を集中させた。


「フレイムバレット!」


 ベリアルに炎の弾丸を放つも、ヒラリと難なく躱された。


「バーニングフレイム!」


 火炎を纏った右腕をベリアルの眼前で一文字に振り払う。ベリアルは眉を顰めて顔を背けた。


火焔砲(フレイムキャノン)!」


 一瞬の隙を突いた渾身の火焔砲を放つ。紅い炎がベリアルを呑み込む瞬間。


 ――バァン!


 凄まじい爆煙と轟音が響き渡り、俺は思わず吹き飛ばされる。


 程なくして爆煙が晴れた。


「――何⁉︎」


 火焔砲を喰らったはずのベリアルは無傷で仁王立ちしていた。


 まさかコイツ……俺の渾身の火焔砲と同等の威力の氷魔法を一瞬で発動させたのか⁉︎


「おいおい……弱すぎて拍子抜けだぜ。いいから()()出せよ。闇の魔法を使わないで俺に勝てると思ってるのか?」


 ベリアルは落胆したような表情を見せる。やれやれ、ついに封印を解く時が来たか。


「やってやるよ、言われずとも。俺の最後の闇魔法ダークネス……篤と味わえ!」


 俺はそう叫び、左手で闇の魔法石を握り締めた。


 ――制限時間は十分。俺とお前、先にくたばるのはどっちかな。


「闇の魔法石に眠りし狼の魂よ! 我に今一度その力、解き放て!」


 ドクン、と心臓が鼓動し、全身を闇の力が駆け巡った。


「クク、やっぱりお前サイコーだよ」


 ベリアルは、まるで遊んでいる子供のような笑顔を見せた。俺は左腕に魔力を集中させる。


「ダークネスフレイム!」


 ――バァン!


 高火力の一撃を撃つも、ベリアルの氷魔法の前に打ち消された。まぁここまで想定済み。俺は氷が蒸発して発生した湯気と爆煙に紛れてベリアルの懐に潜り込む。


「ダークネスナックル!」


 俺の持つ最強の格闘魔法を奴の顔面に放つ。今まで数多くの怪物供を葬ってきた闇の拳。


「フン……」


 だがそれもベリアルに躱される。余裕の嘲笑を浮かべるベリアル。


 その余裕、いつまで持つかな。


「っらあああああああ!」


 獣のように重心を低く構える我流の戦闘体勢から息もつかせぬ喧嘩技の連撃を放つ。下手な鉄砲ではない。一撃一撃に殺意を込めた、一撃必殺の連撃だ。


 が、その拳はベリアルには届かない。全て奴の超人的な動きで捌かれているからだ。でも微妙にこっちが押しているのかも知れない。ベリアルは俺の連撃を捌くのに精一杯で攻撃の気配が無い。


「オラどーした? 避けてばっかりでビビっちゃったか?」


 さっきの挑発のお返しとばかりに俺はベリアルに笑いかける。


「誰がビビってるって?」


 冷たい声が響いたと思うと、俺の両脚が氷結した。両脚の自由を奪われバランスを崩す俺の身体に拳が四、五発めり込む。


「ごふっ!」


 なんか変な声が漏れた。俺は炎を出して無理矢理氷を溶かし、ベリアルと距離を取る。


「クソ……やってくれたなこの野郎!」


 俺はベリアルに吠えるが、奴はそれを無視して思案顔で斜め上を見やる。


「そー言えば、お前さっきの炎魔法の連撃、中々良かったぞ。威力はゴミだけどよ。えーと、最初はなんつったっけ?」


「テメエふざけてるのか?」


「ああ思い出した。――『フレイムバレット』だ」


 ベリアルは瞬時に魔法陣を展開し、無造作に腕を薙ぐ。


 ――ヒュッ!


 ニンジン程の長さの氷柱が約十本、俺目掛けて空を切る。


「ぐッ」


 咄嗟に避けるが反応し切れず、一本が左脚に突き刺さった。


「次は確か――『バーニングフレイム』」


 ベリアルの魔法陣から白く輝く吹雪が吹き荒れる。吹雪が触れた床がパキパキと凍る。やばいこれ当たったら凍るやつだ。


「ッ!」


 負傷した左脚に鞭打ってなんとか氷漬けは回避した。


「んでラストが――『火焔砲フレイムキャノン、と」


 ベリアルはニヤリと笑って見様見真似の氷結砲アイスキャノンを撃つ。


火焔砲フレイムキャノン!」


 さっきベリアルがしたように、俺はそれを火焔砲で迎え撃つ。


 ――バァン!


 二色の光が爆ぜ、辺りの空気がヒンヤリする。打ち消せたが結構ギリギリだった。見様見真似の氷結砲がかなり押している。奴の放つ技全てが、俺から派生した物のくせに俺より威力が高かった。


「お前……俺の技をコピーしたのか?」


「まぁな。俺って天才だから一回見た技は大体再現可能だ。元ネタ(オリジナル)の上方修正バージョンを、な」


 流れるようにベリアルはサラリと言いのける。


「コピー…………面白え。じゃあこの魔法はコピー出来るかな?」


 俺はニヤリと笑い闇の魔法石を握り締める。グッバイ世界。


「漆黒の闇に憑かれし狼よ! 我に更なる力を与え給え!」


 俺の奥の手・二重解放だ。せっかくのラストバトルなのに出し惜しみしてたら勿体ないだろ。


「まだお前実力を隠していたのか。面白い……! サイコーだ!」


 ベリアルはその様子を見て、やっと自分の実力に見合う者が現れた、と勝気に笑ってみせた。



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