第6話/罠
狼月達が塔に乗り込んでからも、黒岩と姉――狼月銀の戦いは続いていた。
「……アクセルブースター・ファイア」
銀は靴の裏に魔法陣を展開させる。そして放たれた爆炎で縦横無尽に戦場を駆る。爆炎で軍勢を蹴散らし、通った後は爆発魔法の無差別殲滅。この圧倒的人数差をものともしない、いや、場に味方がほとんどいないからこそ出来る大雑把で残虐な攻撃。この特殊な状況下において、彼女は自分のアドバンテージを最大限に発揮していた。
「なっ、何だアイツ⁉︎ 本当に人間かよ⁉︎」
「あんな化け物が敵だなんて聞いてた話と違……おい待て待て待て待てこっち来んグハァッ!」
恐れ慄く兵士達を次々倒すその様は武神かはたまた死神か。何にせよ彼女の働きで軍勢は物凄い勢いで減っていく。
――魔法陣の複数展開、発動スピード、威力……全てがデタラメに強い……。一対一だと力加減が出来なくて自滅しそうだけど、多勢に無勢のこの状況では間違いなく最強だな……。
迫り来る敵と対峙しながら、黒岩は彼女を冷静に分析する。
「私が残った意味、無いんじゃないか⁉︎」
戦禍の中、黒岩は投げやりに叫び長槍を構える。両端に刃が付いた薙刀ともつかない奇妙な代物である。と、
「死ネエエエエエエ!」
猿のような怪物の集団が黒岩目掛けて一斉に飛びかかった。黒岩の瞳にギラリと闘志が宿る。
「唸れ魔槍! 弾けろ鮮血! 『双旋斬』!」
叫んだ瞬間、怪物達の首が切断される。
両端に刃が付いた長槍を高速回転させることで変幻自在な斬撃を広範囲に与える大技だ。
「グァ…………」
空気が漏れたような声をあげ、怪物達はドサドサと崩れ落ちる。
「ふう……この技キツい。あー、完全体だったらなぁ……」
疎らに残っている軍勢を恨めしそうに睨みつけて、もう一踏ん張りと黒岩は歩き出した。
その頃、銀は。
「……っと」
飛び回るのに飽きた銀はアクセルブースターを解除した。歩き回りながら爆発魔法で軍の塊を潰していく。
「どかーん……どかーん……どっか〜ん」
銀は爆発に合わせて楽しそうに呟く。今まさに沢山の命を潰えしている者とはとても思えないような無邪気な笑みを浮かべた。
「どか――――」
彼女の口が止まる。今までの雑魚とは明らかに違う敵がこちらに歩み寄ってきたからだ。
「……驚きました。たった独りであの軍勢を殲滅してしまうとは」
「アンタは…………さっきの」
銀と対峙していたのはアモンだった。警戒して距離を取る銀に対してアモンはにじり寄っていく。
「残念ですが貴方には死んでもらいます」
すらりと細剣を抜くアモンに、銀はニヤリと笑う。
「やれるもんならやってみな」
睨み合う両者。
先に動いたのは銀だった。アモンがいた辺りを手当たり次第爆破していく。絶え間ない爆音と炎が戦場を支配する。
一通り終わったところで、銀は手を止めた。
「相手が悪かったな。あばよ」
爆煙が晴れ――そこには誰もいなかった。
「今までずっと分析させていただきましたが、貴方、能力は強いのに他が完全に素人レベルですね。だから、ほら、背中がガラ空きです!」
アモンの細剣が銀の胴体を貫く。
「チッ……!」
舌打ちして飛び退いた銀は傷部を押さえる。急所は外れたものの痛手に違いはない。
「あー最悪……。このパーカー気に入ってたのに穴空いちまったよ……」
「服の心配などしていられるのも今のうちですよ? ――ハァッ!」
掛け声とともに放たれた高速の突きがまたしても銀に突き刺さる。
「グッ……! 掛かったなアホが……ッ 火焔砲ッ!」
あえて刺突を受けて至近距離からの火焔砲。肉を切らせて骨を断つ。自らの負担を考えない、大雑把で適当で大胆不敵な攻撃だ。
「かは…………」
アモンの右腕に直撃し、腕を鎖骨辺りまで抉り取った。高火力の一撃。これをまともに喰らったら無事では済まないだろう。
――彼女以外は。
アモンは瞬時に腕を再生させた。そして「ふふ」と笑う。
「残念でした。肉を切らせて骨を断つつもりだったのでしょうが、無駄に肉が切れただけでしたね」
「だったら再生の間も与えず焼き尽くすまで!」
銀はアクセルブースターを発動させて後ろに退く。
――ゴウ!
瞬間、アモンを中心にして直径百メートルほどの火柱が天に突き刺さった。
「フウ……いい加減消えてくれよ……。そろそろ傷がヤバい。止血しないと……」
炎を眺め、くふっと銀は息を漏らす。
と、火柱の中からザザンと何か転がり出た。
「ゲホゲホ、あ、貴方ならこれくらいやり兼ねないのに……私としたことがつい油断をしてしまいました……」
それは、鎧や全身がボロボロになりながらも立ち上がるアモンだった。まだ生きてたのか、と銀は落胆するが、顔には出さず。
「悪いがこんな所で遊んでる余裕はもう無いんでね。――次で仕留める」
銀はそう言い、右腕に魔力を集中させる。
「私も。前戯はやめてそろそろ本番に行きたいと思っていました」
アモンは全身の傷を回復させ、「チャキ……」と細剣を構え直す。
両者とも次の一撃で倒すつもりだ。場に尋常ではない緊張と静寂が訪れる。
ゆらり、と銀が動いたその時。
「狼月さん、危ない! 伏兵が潜んでいる!」
銀の後方から、黒岩の緊迫した声が響く。
「え」
銀が振り返った瞬間。
――ドスッ!
どこからか放たれた長槍が銀の身体を貫いた。
視界が揺らぎ、ドサリと崩れ落ちる。すると槍が地面に突き刺さり、串刺しの状態になった。
身体から力が抜け、意識が薄れていく。
「…………ちゃ………ダメ、灰…………」
消え行く視界に映った流れる血をただ眺めながら、銀はうわ言のように呟き――――弟想いの戦士は静かに眼を閉じた。




