第5話/弱いままじゃ
戦場を駆け抜け、俺達はベリアルの塔に乗り込んだ。ゴテゴテしい扉を閉めると外の煩さが嘘のように遮断される。
壁にはライトが規則正しく並び、汚れ一つ無い白のタイル貼りの床。薄暗く、ひたすら殺風景だ。
しかし、敵のアジト……完全アウェー。巨大な怪物の胃袋にでも入ったかのような感覚だ。にわかに背筋に寒いものが走り、肩がブルッと震えた。
「……おいおい、冷房効き過ぎなんじゃねーの? もっと環境に優しくしやがれクソヤロー」
「怖くて震えてるのか? やれやれ、狼男が聞いて呆れるね」
俺の誤魔化しをアッサリ破ったヴラドは、フンスと鼻を鳴らす。
「うるせえなこの気障ヶ谷気障人。こんなただの殲滅作業が怖い訳ねーだろ。イヌ科は体温調節苦手なんだよ、もっと繊細に扱え」
「……狼は寒さに強いと思うけど」
「揚げ足取らないでくれよ疾風宮……。ああー、もういいや。お前らと話してなんか緊張解れた。……ところで、ここには誰もいないのか?」
俺はキョロキョロと辺りを見回す。塔で迎え撃つと言っておきながら一階に誰もいないのはおかしい。
と疑問に思ったその時、部屋の奥の階段からガタガタと人影が降りてくる。
「キキキ、思ったより早かったな! 魔王の城へようこそ、ヒーロー気取りの怪物供! 俺はパイモン。キサマらの首を狩る者の名だァ!」
現れたのは、迷彩服姿のガタイの良い男だった。ギラギラ光る三白眼に、荒い息が漏れる大きな口。痙攣する左手でサバイバルナイフを弄び、俺達を見て舌舐めずりしている。
まぁ端的に言ってしまうならば「近寄ったら殺されるタイプのヤバい人」だ。が――
有象無象の雑魚軍団の一員ではなくアジト一階の守護を任されているからには、なかなかの強者に違いない。
それを分かっているはずなのに、何でコイツは俺達の前に立ちはだかってくれるんだろう。
「……ここは僕に任せて」
パイモンの目をじっと見据えて、疾風宮は低い声で言った。
「一人で大丈夫なのかよ? 俺も助太刀するぜ」
「いいんだよ、灰君……。僕ね、こんな顔と性格してるから、今までずっと誰かに守られてきて、誰にも頼られてこなかったんだ。それが嫌で…………そうか、だから黒岩さんから魔法石を受け取る気になったのかな。……えーと、つまり、その、なんだろう……?」
疾風宮は宙を見上げてうーんと唸る。そして結論が出たらしく、俺達に笑顔を向ける。
「僕を頼ってくれ。――守られるだけじゃ、弱いままじゃ、嫌なんだ」
その力強い笑顔を誰が否定出来ただろうか。
弟のように守ってしまいたくなるから。「コイツは俺が守ってやらなきゃ」なんてのは驕傲に満ちた勘違いだった。
「疾風宮くん……死ぬなよ」
「そこまで言うなら任せない訳にはいかねえな。……ありがとう、頼りにしてるぜ疾風宮」
それだけ告げて、俺とヴラドは上に繋がる階段に走った。
「逃がさないイイイイイイ!」
パイモンは俺に向かってナイフを投げた。
――ゴウ!
それを一陣の風が吹き飛ばす。
「ふきとばしウィンド……。僕が最初に覚えた技だ」
掌に浮かんだ魔法陣を閉じながら、疾風宮はクソダサい技名を呟く。
なのになんでこんなにカッコいいんだよ……。
「ガストブローだろーが、センス無えな」
山で一緒に魔法の訓練に悪戦苦闘したあの日が脳裏に蘇り、思わず半笑いでツッコんだ。
「今のうちに行くぞ」
ヴラドに肩を叩かれ、俺達は階段を駆け上がった。
短くなってしまいました……。




