第3話/約束
お待たせしました。このタイミングで何週間も休んでしまってすみませんでした。エタらずに完結させるつもりなのでこれからもよろしくお願いします。
迎えた殴り込み決行日。
「……そろそろ行くか」
俺と姉貴の共同部屋で、予め事情を説明しておいた姉貴に話しかけた。
「…………ん」
姉貴は壁に掛かった時計を見て、息遣いだけで返事をする。機動性を重視した白の半袖パーカーに、これまた機動性良さそうなホットパンツに黒タイツの出で立ちだ。ちなみに俺は機動性を重視した結果、黒パーカーに黒ジャージと、漆黒に身を固めたスタイルになった。……まぁ俺の服なんてどうでもいいですよね。
時計は二十時を回ろうとしていた。この時間になったのは、ヴラドのコンディションを考慮した結果である。
俺はふと考え、仰々しい宝石箱に鎮座する炎の魔法石を掴んで姉貴に放った。姉貴は目を丸くしたが、俊座にそれを掴みとる。
「……持ってけ、魔力切れ防止のお守りだ。どうせ何年も闘いから離れてたくせにロクにリハビリもしてないんだろ」
「余計な世話だ、糞シスコン。あたしなんかに気をかけてる暇あったら……いるだろ、他に気にかけるべき人が」
姉貴は歯切れ悪く、ぶっきらぼうに言い放った。
「誰だよそれ……。桃瀬?」
「当たり前だ、馬鹿。その様子じゃ何も言ってないみたいだけど、ちょっと薄情じゃないのかい? ずっと一緒にいてくれたのに、サヨナラもなしに居なくなるのかよ」
「だからこそだろーが。それが例え保険だとしても、俺は絶対アイツにサヨナラなんて言わない。遺言も聞いてもらわないし、カッコいい名台詞も語らない。代わりに、明日の学校で桃瀬に武勇伝を語ってやるんだ。だから、桃瀬と話すまで俺は死ねない。……絶対生きて帰る」
静かな口調でそう答えると、姉貴は肩をすくめてそっぽを向いた。心なしか、表情が幾分か柔らかくなった気がした。
部屋に沈黙が戻ると、唐突に俺のスマホが着信を告げた。最近追加した番号。
「桃瀬ちゃんからか……?」
「ああ。格好つかねえなぁ……」
姉貴の問いかけに、思わず苦笑い。ついさっきあんな宣言してしまったのがちょっと恥ずかしい。
「…………もしもし。なんか用?」
『あっ、いや、なんか変な胸騒ぎがしたから、ちょっと声聞きたくて……。ごめんね、迷惑だった?』
やけに気を使ってくる桃瀬。電話だと話し相手の顔が見えないから相手の心情が読みづらいのかな、と無愛想な返事をしてしまった自分に反省する。
「いや、全然迷惑じゃないぞ。……で、望み通り声聞かせてやったけど、どうする? 切る?」
『すごい迷惑がってる⁉︎ いいよ、それならもう今日はいいよ……。じゃ、また明日、学校で』
何気なく告げられた最後の一行が心に引っかかった。俺に「また明日」なんてもう来ないかも知れないから。でも、
「ああ、明日な」
『うん』
俺は小さく微笑み電話を切った。
これでいい。これでいいんだ。俺に明日なんてないのかも知れない。
でも、これでいいんだ。
「そろそろ行くぞ、色男」
髪の毛を後ろで纏めながら、姉貴は「死ねリア充」とでも言いたげな視線を向けた。
「色男じゃねーよ。……あ、そうだ姉貴よ。この闘いが終わったら……一緒にロールケーキ、食おうぜ」
「ゴリゴリの死亡フラグ立てんなよ、この馬鹿。……まぁ、あんたの奢りなら食べてやらん事もないな。約束破って勝手に死んだらブッ殺すからな?」
「死んだら殺せない気がするんですがねぇ……」
いつも通りの軽口の応酬をしながら、俺達は暖かい部屋を後にした。明日からはあのつまらない日常に戻れると信じて。
* * *
『ああ、明日な』
「……うん」
狼月との会話を終えた桃瀬は名残惜しそうに通話を終了する。狼月の声が聞けて少しだけ安心したが、胸にわだかまった嫌な予感のようなものは消えなかった。
「大丈夫、だよね……」
月明かりが射し込む部屋の中で、桃瀬は一人呟いた。
「気になりますか? 気になりますよね。じゃあ見に行きましょう」
その独り言に背後から返事が返ってきた。
「⁉︎」
声の正体を掴む為に振り向き、――――桃瀬は意識を失った。




