第1話/黒ずくめの男
疾風宮 みどりはごくごく普通の高校生である。そんな彼に謎の男が世界の救済を依頼してきて……。
少年漫画の王道展開ですね。キャラ紹介に1話も使ってしまいました……。
バトルシーンゼロですごめんなさい。
あと、今更気づきましたが、この回は一章一章が短いです。あらかじめご了承下さい。
沈む太陽で赤く染まった地面に、影が映った。
異形に歪むその影は、これからする事を象徴するかのように。
見た目や種族が違っても、彼等の心はひとつに燃え上がっていた。
「ボス、こちら密偵班。ターミナルの偵察、完了しました。異常なし、です」
はるか上空から夕焼けをバックに、黒い羽を背中に生やし病気の猿のように痩せこけた蝙蝠のような悪魔達が舞い降り、そう告げた。
その言葉にボスと呼ばれた大柄な男は満足そうに頷くと、隊列を成した従兵達を見回す。
「侵入班、手はず通りだ。先に忍び込み、道を用意しろ」
「……了解」
常時体が不定形に揺れ動く半目の侵入班のリーダーは、面倒そうに敬礼をした。
「撹乱班は侵入班の合図で一斉に駆け込め。あとは好きにしな」
「グフ、任セナ」
赤い肌の巨人達が顔を歪めて笑った。
「奪取班は……特に言う事無いな。信じてるぜ」
「光栄です。お任せあれ」
一昔前の怪盗の格好をした奪取班の老兵が、気障ったらしくお辞儀をしてみせた。
「よし。密偵班、解析班、戦闘班は、俺が現場で指示を出す」
地平線の彼方で燃える太陽に照らされた組織のボスは、不気味な薄笑いを浮かべた。
「作戦実行」
* * *
「うえええ……数学分かんない……」
予定よりちょっと早めに勉強という壁にブチ当たった僕、疾風宮みどりは、声にならない悲鳴をあげた。宿題を広げた喫茶店のテーブルに突っ伏す。
レトロな内装に本格派のアメリカンコーヒーが魅力的な店だが、地図があっても迷いそうな立地と入るのを躊躇ってしまうようなボロボロの外観のせいで今日みたいな日曜の午後でもあまり客が来ない、隠れた名店である。
と、どこかのサイトに書いてあった。
喫茶店独特のコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込み、気分転換にペンと消しゴムを使った簡単なマジックをする事にした。
まず、消しゴムを左手でこれ見よがしに握ってみせた。
僕はペンを魔法の杖に見立てて、握った左手を軽く叩いた。
――見てて下さい。ワンツースリー。
腕を振ってペンで左手を三回叩くと、消えた。ペンが。
実は単に耳に挟んでいただけ。だが、これはただのくだらないジョークではない。むしろ、一番大切。いわゆるミスディレクション。
耳の後ろのペンを取り、もう一度魔法をかける。
——ワンツースリー!
そして左手を開く。さっきまであった消しゴムは消えていた。
なかなかのクオリティに、僕はふふんと上機嫌になる。
「お楽しみの所悪いな、『疾風宮みどり君』」
そのせいで誰かが近くにいるのに気付けなかったようだ。
……って言うか誰?
周りを見渡すと、僕のすぐそばに黒いスーツに黒ネクタイを締め、黒い帽子を被り黒いサングラスをかけた全身黒ずくめの不審者が立っていた。
「うぇい! ビックリしたー!」
思わず声に出して驚いてしまったが、マスターの趣味のクラシック音楽が流れているおかげで気にする人は誰もいない。
そんな僕にはお構いなしに不審者は謎のペン型の機械を僕に向け、「魔力適合七八%……いける」などと意味不明の供述を……。
なんか命の危機を感じる。
ここはさっさと撤退しよう。教科書をしまう為にスクールバッグを取り出し
「疾風宮 みどり君、時間はあるか?」
「は、はい!」
不審者が話しかけてきた。下手に拒否して刺激するのも危険なので、まあ話だけは聞いておこう。適当に話を合わせて何とか帰られればベスト。いざとなったら店員でも警察でも呼べば良い。
その不審者は、よっこらせと僕の向かいの席に座った。
「まずは自己紹介かな。私は空間管理局の黒岩と言う者だ。今日はその君の才能を見込んで話がある」
え? ええ? 空間管理局⁉︎ 何それ⁉︎ 黒岩⁉︎ 黒いからかよ⁉︎ そのまんま過ぎだって! 絶対偽名だろ! 何何⁉︎ 僕の才能⁉︎ 何それ⁉︎ 数学ができない才能⁉︎ バカにしてる? バカにしてるのか?
ツッコミ所が多過ぎて頭がパンクしそうだが、一番訳が分からない事を質問した。




