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第16話/最終決戦・蛇足

 

「原田事件」が終結して一週間くらい経ち、季節はいつの間にか夏に。


 かく言う俺も暑苦しいブレザーを脱ぎ捨てネクタイ外してスラックスも薄手の夏用というクールビズスタイルだ。闇の魔法石ペンダントは付けたままでグレーのパーカーは袖を捲った夏仕様。


「うわ……。この暑い中パーカー着てるとか、見てるだけで暑苦しいわ……」


 例によって今期一番の陽気にやられてる桃瀬が俺をじっとりとした視線で見やる。


「ほっとけ。これが俺のアイデンティティーなんだよ。それにほら、狼男イヌ科だから汗腺ほぼ無いし、汗ダラダラで厚着してるそこらの痛い勘違いイケメンと俺を一緒にするな」


 俺はこの教室の湿度よりじっとりしてんじゃないか、ってくらいのジト目を華麗に避ける。


 そんでもってなぜ俺がこんなにテンション高いかと言うと、今ちょうどホームルームが終わって帰り仕度をしているからに違いない。

 と、るんるん気分で荷物を詰める俺の前に、見知った顔が現れる。


「よ、よう狼月、と桃瀬さん」


「あ、匹田くん」


「あ? 学級委員の匹田クンが俺に何の用だよ?」


 るんるん気分を邪魔されて機嫌が悪くなった俺は匹田を突っぱねる。……罰の悪そうな目とかそれでいて意を決した表情とかで大体察しはついてるんだけど。


「狼月、と桃瀬さん。その……。済まない、先日は本当に酷い事をした! 同じクラスの仲間を裏切って売るなど学級委員にあるまじき行為だ!」


 叫ぶように言い捨て、匹田は深々と頭を下げた。ギュッと握り締められた拳は微かに震えていた。なんか周囲の視線が痛い気がする。……あと、俺はお前の「仲間」になった覚えねーぞ。


「やめろよ顔上げろって。学級委員ともあろうお方が俺なんかに頭下げんじゃねーよ。威厳無くしちゃうだろ」


「そうだよ匹田くん。私はともかく灰に謝るなんて筋肉の無駄遣いでしかないよ」


 俺と桃瀬に許しをもらった匹田はゆっくりと頭を上げる。……あの、桃瀬さん? あなた今とても失礼なこと言いませんでしたか?


「……ありがとう。だが……! 僕がした事は到底許されるモノではない。本当に自分の弱さに腹が立つ。困っている仲間ひとりも助けられずに何が学級委員だ! 何がリーダーだ……」


 くううっ、と匹田は唇を噛みしめる。コイツなりに色々考えてたんだな……。


 こういう時なんて言えば良いんだろう。「友達」なんていた事ないから掛ける言葉が見つからない。ぼっち生活の代償かよ。もどかしいな。


 俺は頭を掻きながら無難な言葉を紡ぐ。


「ああそのなに……」


「まぁ、君達なら許してくれると思っていたよ。なんたって君達は優しいからね」


 不器用なりに言葉を掛けてやろうと思った所で、匹田は含み笑いでメガネを押し上げた。……お前さっきの俺の心労返せコノヤロー。


「……食えねえ野郎だな」


「それはお互い様だ。さーて、二人とも許してくれたことだし、そろそろ僕は生徒会に出席してくるよ。明日学校で会おう! さらばだ!」


 くるりと回れ右しながら、別れの挨拶のつもりか片手を上げて匹田は場を去った。


「……なんだったんだアイツ」


 桃瀬に聞かせる訳でもなく一人呟き、俺はスクールバッグを担ぐ。そのままドアに歩を進めると、桃瀬が慌てた様子で付いてきた。何か用でもあるのかと立ち止まる。


「どしたん? なんか用?」


「……きょ、今日私ね、部活休みの日なの。だからさ、たまにはさ、ほら、昔みたいに一緒に帰ろ……?」


 桃瀬はやけに歯切れ悪く、つっかえつっかえ言った。


「……俺がぼっちで帰宅するのが惨めだから一緒に帰ってあげるとかそういう優しさなら要らねえぞ」


 女子との下校とかいう普通の男なら勘違いしちゃうイベントにも、いや、勘違いしちゃうからこそ慎重になってしまう。桃瀬も例に違わず「優しい女の子」だからな。じゃなけりゃ俺なんかに関わろうとするはずがない。「原田事件」以来一言も会話してない戸隠さんと山吹なんかが良い例だ。これが普通の人の反応……ってアレ? 山吹って「優しい女の子」だったような気がするよ? なのに音沙汰ないって、もしや俺なんかやらかしたのか⁉︎


「失礼ね。私は灰のこと可哀想とか全然そんな風に思ってないよ。むしろそういう所もす…………す、すごい痛々しいから見るに堪えないなぁとかへへへへ」


「さっきの間で一体何を取り繕ったんだよ……。お前結構失礼だぞ……」


 半笑いの桃瀬の発言は、衝撃の事実に気づいてショックを受けた俺に追い討ちをかけるかの如く冷酷だった。


 そこからは特に何も話さず校内を移動して、門の前まで歩き着く。校庭では運動部が甲斐甲斐しく汗を流していた。

 そんな部活の喧騒がこだまする暑苦しい校庭から独り離れて、清涼飲料水のペットボトル片手に休憩している人影を発見する。


 片手にテニスのラケットを持ち、大きく澄んだ青い瞳。日本人離れした顔立ちに、極め付けは母親から受け継いだよく似合う金髪――。


 山吹じゃん。


 ぼけっとその姿を見ていたら、山吹は視線に反応してこっちを見た。


「あっ……。お、おーい! ウルフマンと桃ちゃんじゃーん!何なに、二人仲良く下校ですか〜⁉︎ ヒュー、青春だねぇ〜! 羨ましいなぁ〜!」


 山吹はてててっと小走りで駆け寄り、ませた小学生のように囃し立てる。


「ちょっ、アリスちゃん⁉︎ 全然そんなんじゃないからね⁉︎ 灰が一人で下校するのが可哀想だと思って気を使ってるだけだからね⁉︎」


 それを桃瀬が全否定。あなたさっきと言ってる事が違いますよ。って言うか、そういう会話は本人がいない場所でやっていただきたい。


「ふふ、分かってるよ。……お幸せにね」


 ふざけたニヤけ顔で細められた瞳が、気のせいかも知れないが一瞬だけ悲しそうに伏せられた。……まぁ気のせいだよな。


一週間も休んでしまいました。すみません。

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