第15話/最終決戦・終幕
「テメエ……俺に土下座しろって言うのか?」
「え、嫌なら別にいいんですけど。でも、優先すべきは何かをしっかり考えて頂きたいですね」
ゲス顔の俺がゲスい笑顔を浮かべると、原田は観念したようにゆっくりと膝を地面に付けた。
「山吹…………さん。先日はあなたの髪に対して配慮のない不適切な発言をしてしまい――すみませんでした」
ぶるぶると震える背中を丸めて、原田は山吹に土下座した。
「えっ、あっ、ちょっ、その……。ウルフマン、どうすれば良いの⁉︎」
「この無様な姿をしっかり脳裏に焼き付ければ良いんじゃねーの? お前は悪くないんだから」
戸惑う山吹に、俺はゲス顔のまま的確なアドバイスを与える。
「なんとでも思え……。あのデータの為なら俺はなんでも」
「まぁ、『頭下げてなんでも許されるなら警察いらないよな』。いつかアンタに言われた言葉だ。アンタには警察の世話になってもらう。この動画と音声は絶対アンタに渡さない」
原田の背中の震えが止まった気がした。それも束の間、今度は小刻みに震えだした。
「……自分らはいつだってそうだ。てめえらだけで勝手に青春を謳歌して、俺達みたいな奴のことなんて眼中に無え。どうせ自分らも俺のこと見下してバカにしてるんだろ」
おもむろに頭を上げて、原田は語り始めた。誰もそれを遮ることはしなかった。
「俺も青春を謳歌したかった。彼女欲しかった……。でも自分ら女は見てくれと外ヅラだけのバカ男に引っかかって、俺のことなんか見ちゃいないんだ。それどころか俺を影で散々バカにしてよ。……ちょっとでも良いから、俺のことを見て欲しかった。彼女欲しかった……」
「……彼女のいない学生時代を過ごしたことへの行き場のない逆恨み、ですか」
「黙れ……! 自分に俺の何が分かる……⁉︎ 自分みたいな放っておいても女が寄って来る奴に、一体俺の青春の何が分かるってんだ!」
呼吸が荒くなった原田は俺を鋭く睨みつける。憎悪に満ちた、光の映らない目だった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
原田は焦点の定まらない目でどこかを見ながら、ジャージのポケットを探り、あろうことか本物の折りたたみ式ナイフを取り出した。
「ちょっ、原田先生⁉︎」
狼狽える桃瀬に、原田は獣のようにゆらりと視線を向ける。
「ハァ、ハァ…………酷えな、何でそんな目で見るんだよ。死ね」
原田はスッと立ち上がり、ナイフを顔の前に構える。コイツ、相当キテるな。こりゃ何するか分かんないぞ。
「クッ! 敵襲!」
疾風宮の背中にちゃっかり隠れながらファイティングポーズを取る戸隠さん。
「下がってな」
それを軽くいなし、俺はノーモーションから右脚を一閃させる。放ったハイキックは原田の腕を捉え、ナイフを弾き飛ばした。
「グオオ……! 気にいらねェ……! また自分らがぶっ壊すのかよ……!」
腕を押さえてうずくまる原田を一瞥して、折りたたみ式ナイフを拾い刃渡りを見る。
「あー、刃渡り六センチは超えてますねこれ。とりあえず銃刀法違反と傷害未遂で身柄確保してもらって、警察に例の動画渡したら――アンタはゲームオーバーだ」
「ウアアアアアアアア! アアアア、アア…………」
「皆、誰でもいいから先生呼んできて。俺はここでコイツ見張ってるから」
原田の狂気に満ちた絶叫に、俺は逃げ出したくなるような恐怖を覚えたが、踏み留まって皆に指示を出す。
四人がバタバタと部屋を出て数分後、奴等は担任の、あの、名前なんだっけ、担任のオッさんを引き連れて来た。
「灰ー、担任の安田先生連れてきたよー!」
桃瀬の声に顔を向けると、担任のオッさんもとい安田が「よっ」と片手を上げた。
この人で大丈夫か……?
「安田先生、えーとですね」
「あー、皆まで言うな。大体分かるぜ。大方、お前らが隠し撮り映像見せて原田さん逆上して銃刀法違反の傷害未遂、だろ?」
いつものトボけた口調で安田は全てを言い当てた。普段の言動からは想像もつかない頭のキレである。
「まぁそんなです。……隠し撮り映像って、もしや俺達の計画バレてたんですか?」
「オイオイ、俺が何年教師やってきたと思ってんだ? お前らのことなんか全部お見通しだよ。いやー、俺が原田さん警察送りにしてもよかったんだけどさ、どうしても不自然になっちゃうし、後で俺の立場がギクシャクしそうだったからな。ホントよくやってくれたよ悪ガキ共。後は俺達大人に任しときな」
安田はいつものようにニッと笑って、俺の胸を拳で「トン」と叩いた。これが余裕のある大人ってヤツか……。かっけえよ先生!
それから色々あって、学校から原田の姿は消えた。
オーバーキルでしたかね? でもまぁこの人が改心するとは思えないのでこれでいいや。




