第14話/最終決戦・その2
気付きやがったのか、コイツ……。
「持ち物検査なんて言ってるけど、本当は女子の薄着姿見たいだけなんじゃないですかー?」
「見苦しい煽りだなオイ。今ので確信した。やっぱり自分らブレザーになんか隠してんだろ。さぁ脱げ。疚しいことが無いなら脱げるだろ」
完全に形成逆転した場の雰囲気に、原田は意気揚々と俺達に迫る。
「ウルフマン……」
山吹がこそっと心配そうに耳打ちしてきた。
「山吹、今は指示に従うしかない」
「いや、そうじゃなくて、今トガちゃんにスタンガン借りてるから、その……見つかったら皆に変な奴だと思われ――」
「今更遅えよ。お前声デカいからこの会話皆に聞かれてるし」
ブレザーを脱ぎながらサラリと事実を教えてやると、山吹は「ぐはっ!」と短く叫び頭を抱えた。
「脱いだブレザー机に置け。ほら早く」
原田に急かされ、俺達は渋々その通りにする。
「脱ぎたてホヤホヤ、ってな……」
原田はニヤニヤしながらブレザーの中を弄る。桃瀬はまるで汚物を見るような目で原田を睨みつけた。
「お菓子とティッシュ入ってるー。可愛いねー。……あースマホ見っけ。次は……何これスタンガン? 物騒だなぁ。とりあえずスマホは回収して……。ん、何だこのプラスチック? おもちゃのナイフ?」
ブツブツ言いながら原田は「持ち物検査」をする。
「…………アサシンエッジプロトタイプMark=ZERØ。やはり一般人の目にはオモチャ同然に映るようね」
戸隠さんが、小さい、本当に小さい声で呟いた。無駄に長い名前付けやがって。誰がどう見てもただのオモチャなのにね。
いや、気持ちは分からなくもない。俺も昔はその辺に落ちてた木の枝とかゲーセンのコインになんか特別な力があるんじゃないかとかよく妄想したもんな。高校生にもなってそれはどうかと思うが。……まぁ俺も狼男が封印された闇のペンダント首にかけてる高校生な訳ですが。
だが、今物色されてるのが戸隠さんのブレザーだとしたら、見つかるのは時間の問題――。
「ビンゴ」
原田はスマホを掲げて、嫌な感じに笑ってみせた。
ああ、見つかっちゃったか。
ピッとスマホを操作し、原田は録音アプリを止めた。
「いやー、最近のガキは怖えな。スマホの録音アプリで一部始終記録するつもりだったのか。俺がボロを出すのをずっと待ってたんだな」
原田は、監視の危険を回避したとさっきより饒舌になる。そうだよな。録音されてないならどんな事喋っても構わないもんな。
「とりあえず自分らのスマホ全没収な。理由は校内での不正使用。俺はその間にヤバいデータ全部消すから。……ロック解除出来ない? そうか。じゃあ頃合い見計らってどっか捨てるか」
「そんなの……権力の乱用じゃないですか! やり方が汚いですよ!」
激昂した疾風宮が原田に噛み付く。原田は、蛙の面に水とばかりに薄笑いを浮かべる。
「やり方が汚いのは自分らも同じだろ? 俺のことコソコソ盗撮しやがってよ。残念だが自分ら、あの動画はスマホごと抹消する。録音されてないからぶっちゃけて言うけど、あんなの公になったら俺、社会的に死んじゃうからな」
原田はヘラヘラと笑って戸隠さんのスマホをブレザーの山の中にボスっと放り投げた。その様子に、俺はため息をつきながら、
「……原田先生よォ。今まで俺達にしてきた事、悪かったなとか少しでも感じちゃいませんか?」
「ヘッ、冗談止せよ。生意気なクソガキに憐れみなんか感じるかよ」
「はぁ……。ホント救いようないですねアンタ。――今、録音中ですよ?」
「へ」
原田の顔から表情が消え、ポカンと口が半開きになる。最高だよそのバカみたいな顔。
「いや『へ』じゃなくて、実はこの会話も録音してます」
「そんなバカな⁉︎ ブレザーに仕込まれたスマホは回収しただろ!」
「そりゃただのダミーですよ。ブレザーに何かを隠し持っているという自分の考えが当たって調子に乗ったアンタはまんまと本命に気付けなかった」
「先生の思考をミスディレクションさせていただきました」
俺の後に続いて疾風宮がニコリと微笑んだ。それはまるで拍手喝采を受ける舞台上の奇術師のような、自信に満ちた笑顔だった。
「じゃあ……どこに」
余裕を失くして狼狽える原田に、俺はサッと戸隠さんを手で示した。
この部屋にいる者全員の視線を浴びた戸隠さんは緊張で顔を赤らめながらスカートに手をかけ、スルリとたくし上げた。チラリと覗く白い太ももに、シュシュで括り付けられたペン型ボイスレコーダー。
ただのシュシュなのに、さながらアニメの女泥棒か、はたまた映画の女暗殺者が付けていそうなレッグホルスターのように感じてしまう。
戸隠さんは今度は恥ずかしさで顔を真っ赤にして、そそくさとボイスレコーダーをシュシュから外して俺に手渡した。……ほんのり温かく、微かに良い匂いする。
「ッ……。どうも」
戸隠さんの太ももにずっと密着していたボイスレコーダーをこうして俺が持っているという事はつまり俺の手は間接的に――と思考が勝手に高速展開していくのを理性で必死に抑えつけ、原田に向かってニヒルに笑う。
「このレコーダーは俺達がこの部屋に来る前から録音を始めています。つまり、今までのやりとりは全て記録済み。アンタがいくらスマホ捨てても、どこからか出てきた動画のバックアップをしらばっくれても無駄、って事です」
俺の一言一言を原田が噛み締め、次第に顔が絶望に染まっていく様は、見ていてとても滑稽だった。
おもむろに原田は口を開く。
「……分かった。分かった俺の負けだ。負けを認めてやるからそのレコーダーのデータ買い取らせてくれ。あとスマホの動画も。全部合わせて――五千円でどうだ?」
「ホントに救えないですねー、原田センセは」
「あーもう分かった! 一万円、いや、二万円でどうだ!」
「俺達ぁ金が欲しくてこんな事してんじゃねーんだよ! 誠意見せたいってならアレです、原田先生。とりあえず山吹さんに謝って下さいよ。理由なんて聞かなくても分かるでしょ?」
山吹の生活指導室の一件が鮮明に頭をよぎった。俺がこの件に首を突っ込んだ理由だ。
俺は人差し指を伸ばしてピッと地面を指差した。今の俺の顔は悪魔もドン引きのゲス顔だっただろう。
「テメエ……俺に土下座しろって言うのか?」




