第12話/鬼と獣と暗殺者
一週間ほど無断欠勤してすみませんでした。思いっきり五月病に罹っていました。
これからもよろしくお願いしていただけると嬉しいです。
時は流れて迎えた放課後。
生活指導室に向かおうと席を立った俺をヴラドが引き止めた。
「あの三文芝居は何だ? またお得意の自己犠牲精神か?」
いつものスッとぼけた口調ではなく、真剣でどこかゾッとする声だった。
「……そんなんじゃねーよ。俺なりに桃瀬を守ろうとしただけ」
「守る方法ならいくらでもある。君が悪役を演じる必要は無かったんだ」
ヴラドは急にシリアスなキャラになっていた。今から原田と対戦しようってのに鬱陶しい奴め。
「何だお前、俺の心配してくれてるのか? この立ち位置は慣れてるから構わないが」
「僕ぁ君の心配なんかこれっぽっちも考えてない。仮にアレが成功して君が忌み嫌われても僕の知った事じゃない。そうじゃなくて、皆から嫌われている君を見て桃瀬さんが何を思うか、だ。自分の大切な人が白眼視されてる状況に耐えられないんじゃないかな」
いつしか、放課後の喧騒は俺の耳に入らなくなっていた。耳鳴りがするほど冷たい沈黙が、ヴラドと俺だけ別の世界に行ってしまったように錯覚させる。
「あんなやり方で桃瀬さんが喜ぶと思っていたのか?」
「……じゃあなんだ。俺が桃瀬助けようとしたのは自己満足のためとでも言うのか」
「ああその通りだね。遺された者の気持ちなど微塵も考えずに自分だけカッコよく死ぬなんて自己満足以外の何者でもないだろ」
ヴラドは鋭く俺を睨み付ける。その瞳は俺を見ているようでどこか別の場所を見つめているような気がした。
「俺は死なないけどな。いや、学校の中の俺の立場が死ぬとかそー言うこと? 心配すんな。俺の立場がこれ以上酷くなること無えから」
「……今とても悲しい事を言われた気がするな。まぁ良いか。済まない、時間取らせたね。生活指導室行ってらっしゃい、不良生徒クン。優等生の僕は悠々と家に帰るから」
ヴラドはヒラリと手を振って教室を後にした。
「……何だアイツ」
思わず独り言を呟くと、女友達と話していた桃瀬がこちらに向かってきた。
「もう、これから生活指導室行くのになに油売ってるのよ! みんなで行こうって約束したじゃない!」
ぷんすか怒る桃瀬の後ろには疾風宮・山吹・戸隠さんがいた。
みんなで、ねぇ……。懐かしい響きだな。
「悪い、そうだったな。じゃあ行くか……って、何で俺が仕切ってるんだよ」
あまりに俺が自然に仕切ったので、自分で自分に突っ込んでしまった。俺が他人の会話盗み聞きして常日頃培っているツッコミスキルが発動したようだ。
「いーじゃん。今回は頭脳として一番活躍したウルフマンがリーダーで。ワタシは一生付いて行きますぞ、リーダー!」
「なんだよそれ……。俺は人に後ろ歩かれるの好きじゃないの。道を間違えたら迷惑かかるし特に夜道は背後から迫り来る足音怖い」
謎のノリの山吹を軽くたしなめ、俺は机に乗せたスクールバッグを担ぐ。実際、俺はリーダーなんて柄じゃないし、むしろチーム組むよりソロプレイの方が好きだ。
「……じゃ、一緒に行こ、灰」
桃瀬が上目遣いで俺を見上げて、緊張したような固い笑みを浮かべた。
これから原田とバトル、か。そりゃ緊張するわな。
俺達は賑やかな教室を後にし、戦地(生活指導室)に歩を進めた。
「いやー怖いねー、緊張するねー」
どこか冷たい空気の流れる静かな廊下に、疾風宮の間延びした声が響く。
「……緊張する必要無えよ。あの時言った手はず通りにやるだけだ」
二十秒ほど経っても誰も何も言わなかったので、俺は仕方なく疾風宮を適当にあしらった。皆緊張して明らかに口数減ってるな。
「手はずって何だったっけ……。へへ、忘れちゃった」
頭をかきながらペロッと舌を出すのは我らが金髪ハーフ・山吹だ。いや忘れなんなよ。
「……山吹ちゃんには特に指示は無いわね。敢えて言うなら原田先生に作戦を気付かれないようにする、かしら」
顎に手を添えた戸隠さんは山吹に囁く。……この子、女子相手なら普通に喋れるのな。
「あ、そうだ。いざという時の為に山吹ちゃんには私の護身用スタンガンを貸しておくわ。……え、大丈夫? 心配いらないわ。私は折りたたみナイフを装備するから。今まで黙っていたけれど、私は幼少期、某国機関で特殊な訓練を受けていたの。最強の暗殺者になる為にね」
戸隠さんはどこのスパイ映画だよって感じの自分語りを終え、「この事は他の人には内緒ね」と唇に人差し指を当てる。……この子も中二病だったんだなぁ。
意外な一面に勝手に親近感を覚えていると、桃瀬にクイッとバッグを掴まれ引き寄せられた。
「えーっと……。どうリアクションすれば良いのかよく分かんないよ、灰!」
困惑顔の桃瀬に小声で詰め寄られた。まぁ当然の反応か。
「適当に話に乗ってやれ、喜ぶぞ。……それはさておき、戸隠さん、あの用意出来た?」
ちらりと戸隠さんの方を見やると、彼女はキュッとスカートの裾を握り、上目遣いでコクリと頷いた。
みたいなどうでもいいやり取りをして、俺達は生活指導室のドアの前に到着した。
「……いよいよか。それじゃ皆、『作戦開始』!」
部屋の前に荷物を置いた俺は、ピシッと言い放ち魔王の城の扉に手をかけた。




