第9話/不思議
「私にも見せてー」
と、この男臭い空間の中に桃瀬が入ってきた。頰を寄せ合っていた男共はスッと桃瀬に場所を譲る。桃瀬は疾風宮の机に手を付き、俺を押し退けるように前傾姿勢をとった。
「お前っ、やめろ近い」
このままだと肩ぶつかるんじゃないかって位近い。お前絶対わざとだろ。
「さてさてみどり君。動画をレッツ再生!」
「幾らでもどうぞ」
桃瀬にせがまれ、疾風宮はまたしも動画を再生する。
「どうだ? 期待通りのヤツ撮れただろ」
原田が俺を殴る一部始終を見た桃瀬に得意げに言ってやると、桃瀬は表情を曇らせた。
「よく撮れてるけど、その、ごめんね……。全部私が言い出したのに灰にこんな役やらせて」
消え入りそうなか細い声で桃瀬は謝った。
「そんな事気にすんなよ。なんたって俺は狼男の血を引いてるからな。一般人より耐久値は飛び抜けて高い。アレだ、適材適所ってヤツだよ。クラスをまとめるのはお前の適所で、体張るのは俺の適所。互いの得意分野で協力しあうのが一番だろ」
柄でもない事を言った為か、ぶっきらぼうな口調になってしまった。ちらっと桃瀬の顔を伺うと、屈託のない笑顔でニコッと返された。
「ありがとう」
何か知らないが感謝された。感謝される筋合いなんか無えっつーの。やめろよ、照れるだろ。
「ああ別に――」
桃瀬に話しかけようとした口が止まる。例の不思議系女子が桃瀬と話したそうにチラチラとこちらを見ていたからだ。
さりげなくスッと道を開けると、不思議系女子は一瞬俺を見て桃瀬の肩をつんつんと叩いた。
「ミッションコンプリートよ、桃瀬ちゃん」
ペン型ボイスレコーダーを差し出しながら不思議系女子は親指を立てる。桃瀬も女子の中では小柄な方だが、不思議系はそれより小さい。ミステリアスな感じはするが、小動物的な可愛らしさも同時にあったりする。……小動物はペン型ボイスレコーダー持ってねーか。
「おー、ありがと不思議ちゃん!」
「えへ」
桃瀬に感謝されて頰を赤らめる不思議ちゃんとやら。
……へ。
「“不思議”って本名⁉︎」
桃瀬がそんなアダ名付けるとは思えないから、つい大声を出してしまった。名は体を表すというが、親は何を思ってそんな名前を――。
色んな疑問と共に不思議ちゃんを見ると、彼女は「ひっ」と声を漏らしカサッと桃瀬の影に隠れた。
「あはは、ごめん灰。この子ちょっと人見知りで」
「人見知りって言うか軽く化け物扱いされたような――」
まぁ化け物なんだけどね。遠慮がちに桃瀬の影から覗く不思議ちゃんをそっと伺っていると、なんか目が合った。
「あ」
「――――っ!」
不思議ちゃんは、ぴゅーんと脱兎の如く逃げ出した。あの、なんかゴメンなさい。出来るだけもう二度と関わらないようにしますね。はい。
「凄い嫌われようだな、さすが俺。……泣いて良い?」
「灰は誤解されてもしょうがないくらい目つき悪いからね……。ホントはただの中二病なのに」
「中二病言うなっての」
短くなりました。ちなみにこの不思議ちゃんは特に掘り下げる気はありません。(掘り下げようと思えばいくらでも行けますが脱線するので)
あと、疾風宮くんが完全に空気。




