第8話/ピエロは笑い、それぞれは役を演じきる
「作戦」を発令して迎えた初めての歴史の授業。生徒達は、緊張・反発・少しの興奮が入り混じった面持ちで教壇の原田を睨み据える。
そんな事知る由もない原田は生徒達を睨め付ける。
「さて、今日からヨーロッパの外交を見ていきたいと思う。自分らのようなどうしようもないオツムじゃ理解出来ねえかも知れんが、その時は……諦めろ! ハッハッハ!」
体を大きく揺らして、原田の嗤い声が谺する。生徒達は沈黙を貫きつつ、わずかにほくそ笑んだ。
「何笑ってんだ自分ら……? チッ、白ける。オラ教科書開け!」
予想外の反応に困惑した原田は、苛ついた様子でバサッと教科書を開く。と、そんな中、窓際の一人の男子生徒が手を挙げた。
「すいませーん。教科書忘れましたー」
その生徒は間延びした口調で詫びを入れた。その挑発的な口調に腹が立った原田は、教科書を持ち大股でその生徒の元へ向かう。
「またか狼月! ホントよく忘れるよな! 自分、脳の病気なんじゃないのか⁉︎」
原田は楽しそうに狼月を罵倒して、教科書で頭を殴る。
教室中に鈍い音が響く。狼月は痛そうに呻き、机に突っ伏した。他の生徒達はニヤニヤしながら狼月と原田を見やる。
「教科書忘れるとコイツみたいなダメ人間になっちまうぞー。さて、授業始めるかー」
原田は何事もなかったかのように言い放ち、生徒を侮った視線で睨め付けた。
* * *
「おー、撮れてる撮れてる」
授業が終わった休み時間に、俺と数人のリアル充実してる系の男達は疾風宮の机に集合した。机の上のスマホには、俺が殴られた証拠映像がバッチリと記録されていた。……何でコイツのスマホには無音カメラアプリがインストールされているのだろうか。
ちなみに音声証拠は何故かペン型ボイスレコーダーを持っていた不思議系女子が担当している。……お父さんスパイか何かなの?
「よくこんな至近距離から撮れたな」
俺と疾風宮の席は割と近い。感心して息を漏らすと、疾風宮は照れたように頭を掻いた。
「視線誘導には多少覚えがあってね」
「おー、さすが手品師」
「スゲー! ミスディレクションとか超カッケーじゃん! 疾風宮くん何者⁉︎」
「いっ……いやいや、少し手品かじっただけのどこにでもいる平凡な男子高校生だよ」
騒がしい系の男に褒められて、疾風宮は困った笑顔で答えた。ラノベ系の主人公にありがちな自己紹介だなオイ。
「あと、狼月のこの迫真の演技な! メッチャ痛そうに呻いてたじゃん! スゴすぎて授業中笑っちゃったじゃねーか!」
「え、俺も⁉︎ って痛てててて! ヘッドロックすな!」
スキンシップ取りたい系の男にヘッドロックを極められ、取り敢えず笑っとけ系の男が大声で笑った。
あー、あれだ。お前らなんか暑い。暑苦しい。こんなに暑苦しいのはいつぶりだろう。幼稚園に通ってた時ぶりだ。
懐かしい感覚に一瞬心地良さを感じて、ハッと我に返る。こんな誰かを排する為の関係が本物な訳がないのに。
結局、リア充なんてのは彼等の心に幻想する「リア充らしさ」という虚像に倣って動く存在でしかない。今回はたまたま彼等の劇の小道具として俺が巻き込まれただけであり、この一件が終わったら彼等は俺のことなんて忘れてしまうに違いない。
「教室でスマホ弄るなよ。校則守れ。どこで先生が目を光らせてるか分からないんだから」
どなた?
冷めた気分で声の主を見ると、学級委員の男だった。名前何だっけ。匹田だっけ。
「一体何やって……おお、よく撮れてるじゃん。凄い」
匹田は疾風宮のスマホを覗き見て勝手に感心した。さっきはヒトの事不良生徒みたいに扱いやがって。
「手のひら返し上手いのな」
そう呟かずにはいられなかった。
「おっと、済まない。実際僕も原田先生にはウンザリしているんだ。学級委員という立場上、君達とは関われないが、君達で原田先生を追い詰めてくれ。応援してるよ」
匹田はポンと俺の肩に手を置く。学級委員だの言ってるが、要は手を汚したくないだけだろ。
「……主導者は桃瀬だぞ」
「そ、そうなのか⁉︎ はあー、あの人がそんな事を……。他に中心人物はいたりするのか?」
本当に知らなかったのか、匹田は素で驚いていた。
「中心人物ねぇ……。山吹と桃瀬が色々企んで、俺が知恵を貸して、クラスに発信したのも主に山吹と桃瀬、って感じかな」
「君が頭脳で、山吹さんと桃瀬さんが司令塔という事か?」
「まぁそうなる」
「狼月と山吹さんと桃瀬さん、という事か?」
「……だからそうだけど、それが何か? あと、何で俺だけ呼び捨て?」
しつこく念を押してきた匹田を怪訝そうに見つめた。匹田はどこ吹く風とメガネを押し上げる。
「知っておきたいんだよ。円滑なクラス運営の為に」
頑張れよ、と笑いかけて匹田は場を去った。
金曜日の無断欠席すみませんでした。なるべく投稿スピードは落とさないように頑張るので、これからもよろしくお願いします。




