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第6話/えたーなるだーくえんぷてぃねす

 

 かくして俺と桃瀬は食堂に行った。


 昼休みのような活気は無く、人も疎らな長テーブルに向かい合って座った。


「桃瀬、本当に良かったのか? 部活休んだりして」


「良いの良いの。一年の友達に原田先生をどうするかについて考えたいって言っておいたから。原田先生のこと苦手な子結構いるから、他の部員のみんなも快く認めてくれたと思うよ」


「相変わらず女子からの信用厚いな……。さすが学級委員」


 幼稚園時代からずっと桃瀬を見てきたのだが、コイツは女子との網、と言うか人間関係を作るのが本当に上手い。あのドロドロしい女子の人間関係を完璧に築いてしまう技量には、毎度ながら舌を巻く。


「羨ましいの? そんなに良いものでもないけど」


「羨ましい訳ねーだろ。そーいうゴタゴタが嫌いだから俺はいつも独りなんだよ」


 首を捻る桃瀬に、俺はキッパリと言い放つ。……本当はただ友達いないだけなんだけどね。


「そもそもアレだ。俺は闘いの中に生きる男だからな。下手に一般人と仲良くするとそいつを闘いに巻き込んで危険な目に――」


 さっ、と桃瀬が手で制した。そして、皆まで言うなとばかりに小さく微笑んだ。さすが桃瀬さんだぜ。伊達に俺の幼馴染やってないな。


「分かったから。中二病も大概にしようねー」


「何も分かってないわ……」


 俺はがっくりと肩を落とした。さっきの感動を返してくれ。俺は大きく咳払いをして仕切り直す。


「中二病はさておき、本題はどうやって原田を辞めさせるか、だよな。前も言った通りだが、教師を辞めさせるのは簡単じゃない。特に私立は教育委員会の管轄から外れているし、他の教師に相談してもお偉いさん方に握り潰されてお終いだ」


 桃瀬は「ふーん」と声を漏らして小首を傾げる。


「中二病はさておいて良いのかな……?」


「良いんだよ。むしろ永遠なる漆黒の虚無に葬ってくれよ」


「うわぁ、痛い……」


 どこぞの小説家のように上手いこと言ったと思ったら、本気で引かれてしまった。……もう二度と言わないからその哀れみの目は止めなさいね。傷つくだろ。


「って、そうじゃなくて! 原田先生のことはどうすれば良いの⁉︎ 真面目に考えてよ灰!」


「何で俺が怒られんだよ! そもそもお前が――。……まぁそれはさておき、方法は大きく二つある」


 湧き出る言葉をグッと呑み込み、俺は自信たっぷりに指を二本伸ばした。


「二つ?」


「そう。一つ目は簡単で確実だ。クラス皆で原田に嫌がらせをするんだ。奴が学校にいる事が苦痛に感じるくらいに、な」


 それを聞いて、桃瀬は表情を曇らせた。テーブルの上に置かれた手がきゅっと握られる。


「それって、みんなで先生をいじめるって事? それはちょっと可哀想……」


「フン、優しいのな。まぁ、もし辞めさせてもアイツは新しい学校で同じことするだろうから、新たな犠牲者が出るだけだろうな。臭い物に蓋理論だから根本的な解決にはなってない。それに、そんな事したら余計に学生を嫌いになるだろうし」


 俺が追加説明すると、「そーだよねー」と桃瀬は間延びした相槌をうった。思案顔で頬杖をつく姿は、苦悩する学級委員そのものだった。コイツも苦労してるんだな。


「あと一つは?」


 桃瀬の細長い人差し指が気怠げに伸びる。指を見ながら、爪が綺麗だなとか超どうでもいいことを考えてしまった。


「こっちは難易度高めだけど、原田の暴君ぶりを記録していくやり方だ。例えば、原田が教科書で生徒を殴ってる瞬間をカメラに収めたり、俗に言うセクハラとかパワハラとかに当てはまりそうな有り難〜いお説教をボイスレコーダーに録音したり、だな。後は、 今日何があったとかどんな酷い事をされたとか日記をつけるのも良い。原田が言い逃れ出来ない証拠を集めて、それを基に大人達を動かす」


「なるほどね。こっちの方が良いかも」


 桃瀬は納得した様子で頷いた。納得してもらえて一安心。


「悪いな桃瀬。汚い真似させるようで」


 先回りして謝っておいたら、桃瀬に笑われた。


「私からお願いしたんだもん。何があっても最後まで灰に付き合うよ」


「桃瀬…………」


 お前、本当に良い奴だな。女子から絶大な信頼を寄せられている理由がなんとなく分かった気がするよ。


「うぇっ⁉︎ 桃ちゃんウルフマンと付き合うの⁉︎」


 突然背後から大声がした。面食らって後ろを振り返ると、大きな目を更に真ん丸にして驚いている山吹がいた。


「つッ…………⁉︎ つ、つつつt」


「落ち着け桃瀬。お前は壊れたCDラジカセか」


 謎の不具合を起こした桃瀬を軽く宥め、山吹の方を見やった。誰でもいいからそろそろ桃瀬の取り扱い説明書書いてくれよ。


「山吹、一応言っておくが全然違うからな。って言うかお前」


「今日は部活休みの日だよ。それより桃ちゃん、隣良い?」


 山吹は俺の言葉を遮り、桃瀬の隣に座った。うは、男女で向かい合って座るとか合コンかよ。それとも最近流行りのハーレムかよ。


「山吹、お前さっき原」


「いやー、帰ろうとしたらたまたま桃ちゃんが友達と話してるの聞いちゃって。原田対策会議を開催するらしいじゃん? ワタシも参加したいなーって」


 山吹はまたもや俺の言葉を遮る。その不自然さが、原田の話はして欲しくないのかな、と勝手に忖度させた。現に山吹の笑顔は、今にも壊れてしまいそうに儚げだ


「いやいや、会議なんて大層なものじゃないのよ。さて、私飲み物買ってくるけど、何かリクエストある?」


 そんな空気を知ってか知らずか、桃瀬が席を立った。


「ワタシはホットココアが良いかな」


「じゃ俺はブラックコーヒーを」


 俺と山吹の注文を聞いて、桃瀬は「はいよ」と言い残し自販機へと向かった。


 桃瀬の背中が小さくなるまでボーっと後ろ姿を見ていたら、山吹が「ねぇ」と話しかけてきた。……中心人物の桃瀬がいない二人っきりの時間をこうしてやり過ごそうとしたんだが。


「ねぇ。さっき、原田からワタシを助けてくれたのって……ウルフマンでしょ? あの時は混乱してたからロクにお礼も言えないで逃げちゃったけど……」


「俺が山吹を助けた? おいおい何の話だそれ? 俺はたまたま生活指導室の前で咳払いしただけの通行人だぜ?」


 実際、俺の言っている事は間違っていない。たまたま生活指導室の前を通りがかったら原田の説教を盗み聞きして、たまたま痰が絡んだから咳払いしたまでだ。だから礼なんて言われる筋合いはない。


「ウルフマンにとってたまたまでも、ワタシはそれで救われたの。……ありがとう、狼月くん」


 原田との事でも思い出したのか、山吹は潤んだ瞳で俺を見つめる。そんな目で見るなよ。うっかり俺のこと好きなんじゃないかって勘違いしちゃうだろ。


「なんだよ急に……ウルフマンでいいよ」


 居心地が悪くなってそう言ったら、山吹はニコッと笑った。


「ふふ、前は嫌がってたのに変なの。それでねウルフマン」


「やっぱ狼月がいい」


 ……もっと居心地が悪くなった。


「え〜! やっぱりダメなの⁉︎ むう、せっかく考えたのに! もう知らない! 一生ウルフマンって呼び続けるから!」


 山吹は「ふんっ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向き、数秒して「へへっ」とはにかみながら俺の顔を覗きこんだ。すっかり普段通りの山吹だ。いや、普段のコイツよく知らないから分かんないけど。


「救われた……のか。これで」



……この物語はフィクションです。別に教師を辞めさせることを助長するものではありません。くれぐれもコレを読んで変な気は起こさないようにお願いします。


なお、それでもという方は自己責任で。作者も影から応援してますぜ(オイオイ)


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