表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/139

第4話/生贄会議

 

 教科書類を教卓に置いた原田は腕を組んだ。これが号令の合図だと言葉にされた訳ではない。だがクラスの皆は一週間以上授業を受けてなんとなく悟っていた。


「起立」


 緊張感に満ちた桃瀬の声が教室に響く。クラス全員が一斉に立ち上がった。


「気をつけ。礼」


 俺達はまるでどこぞの軍隊のように一糸乱れぬ礼をする。……そうしないとまるまる授業時間使って指導されるからね。あれはキツかった。


 原田は、芸を仕込んだ犬を見るような満足げな視線で俺達を見た後、「着席」と命令した。

 ある者はため息をつきながら、またある者は安堵にホッと息をつきながら着席する。


「さて教科書とノート出せ……と言いたいところだが今日は自習」


 原田は冷たい声でそう言い放った。今更コイツの理不尽に驚くことはないが、クラスからはどよめきが起こった。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ先生! 何で自習なんですか⁉︎」


 中でも一番面食らったマッシュルーム頭くんが、自慢の黒縁メガネをくいっと動かし質問した。確かコイツも桃瀬と同じ学級委員だったっけ。


「自分の目は節穴か? 自分らで俺をバカにしてるのか⁉︎ 前見ろ、これじゃ俺に失礼だろ!」


 原田が黒板をバンッ! と叩いた。大きな音に、数人の女子が首をすくめる。よく分からんが原田はご立腹のようだ。俺達が何したってんだよ面倒臭えな。前見ろって言われても……。


 …………ん。


 怒ってる原因って。


「黒板消してないから……?」


 一人の生徒がポツリと呟いた。すると、それが波紋のようにクラス中に伝染していく。


 ――はァ? 黒板消してないから⁉︎


 小学校の先生とかなら躾とかそういう意味ならまだ分からなくもないけど、あんたがやるなよ……。癇癪持ちの駄々っ子と何ら変わんねーぞ。


「黒板消しは日直の仕事だったよな? 今日は誰だ?」


 どれだけ勉強したいのか、学級委員くんは勝手に犯人探しを始め出した。大方、犯人を見つけて原田の機嫌を取ろうって魂胆だろう。


「今日の日直は出席番号的に…………狼月だ」


「えっ、俺⁉︎」


 驚きのあまり変な声出してしまった。俺日直だったの⁉︎


「何驚いてるの、灰でしょ」


 桃瀬が呆れた声で言った。マジか俺のせいか。


 クラスの連中の非難的な視線が一斉に俺に注がれる。みんなの視線を釘付けとかさすが俺、超人気者だぜ。…………はぁ。


 俺という共通の敵でクラスの奴等と一致団結した学級委員くんは得意げに俺を睨み据えた。


「狼月……分かるな?」


 クラスを代表したかのような口調だが、要は俺を謝らせてこの場を収めたいだけだ。

 俺は知っている。こんなものは正義でもなんでもない。己の保身だけを考えた単なる偽善であり、鬼への生贄を決める村会議と同じだ。


 だが今はそれをとやかく言うつもりはない。


 俺は席を立ち、つかつかと黒板の方まで歩いた。適当な黒板消しを見繕い、書かれた文字を消していく。


「……すいませんでした」


 黒板消しで消しながら原田に謝ってみせた。だがそんなものが許されるはずもなく。


「そんな態度で謝る奴があるか! 自分、ナメてるのか⁉︎」


 教室内に原田の怒号が響く。ダルいけど、これ以上原田を怒らせて桃瀬を怖がらせる訳にはいかないよな。


 小さなため息と共に黒板消しを置き、体を原田に向き直らせた。


「すいませんでした」


 今度は頭を下げて謝った。こんなクズ相手に頭を下げるなんて、屈辱だ。俺は怒りに震える拳をギュッと握りしめた。


「ふっ」と原田は鼻で笑う。


「狼月く〜ん。いつぞやは俺にメンチ切ってたけどなんとまぁ無様だねえ〜! どうだい、薄らハゲに頭を下げる気分は〜? 俺は最ッ高の気分だよ〜! 生意気なガキが俺に服従したってね!」


 原田は嘲笑を交えて詰る。俺のこめかみには青筋が浮かんだ。


「ま、頭下げてなんでも許されるなら警察いらないよな。今日自習な」


 原田はそう言って教師用の椅子にどっかりと座った。……このハゲ絶対許さん。いつか呪い殺す。


 自席に戻ると、学級委員くんが「使えねえなコイツ」みたいな視線でこっちを見てきた。


 ――引っ込んでろ腰抜けメガネ!


 原田に対する怒りを全部込めた目で睨みつけると、学級委員くんは「ひっ」と声を漏らして下を向いた。


 桃瀬が何か言いたそうな顔でこっちを遠慮がちに見ていたが、一旦無視。こういう時はふて寝に限る。机に伏せて瞳を閉じて、気付いたら授業は終了していた。


 軍隊みたいな別れの挨拶を一通り終えて俺はまた夢の続きを――。


「……山吹アリス。ちょっと職員室来い」


 少しだけ字面に覚えがある名前が聞こえた。耳がピクリと反応する。


 山吹と一緒にいた友人達は怪訝そうに顔を見合わせていたが、当の本人は何やらピンと来た様子で笑顔で友人達に別れを告げた。


 その笑顔がわざとらしかったからか、俺は妙な胸騒ぎを感じた。……ま、いっか。俺には関係ない話だよな。そもそも俺リア充とか嫌いだし。


 やる事がない休み時間の暇を潰す為に、俺は再び体を伏せて夢の世界にリンクスタートした。


金曜日に投稿できなくてすみませんでした。言い訳させてもらうと、僕がいつも小説を書く時に使っている某林檎の書類作成アプリが不具合を起こしてまる一日データにアクセス出来なくなってしまったのです。


バックアップの重要性を理解した今日この頃です。


次回はいつも通り月曜日ですので、これからもよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ