第1話/山吹アリス
狼月のクラスの歴史の教師が変わった。手腕に期待する狼月達だが、その教師は明らかな異常者で――。
最初に言っておきますが、この回では狼月くんは闇の魔法で戦闘しません。狼男ではなく高校生の狼月灰が主人公です。代わりに使う魔法は……勇気。
なんてむず痒いこと言ってみたり。
「失礼しました……ふぁああ〜」
大欠伸を一つして、俺は生活指導室のドアを閉めた。なんでも、最近連続で遅刻してるため出席日数が足りなくて留年する危険大なんだそうだ。教えてくれるだけ良心的だが、二十分間ぶっ続けでお小言をもらうのはたまったものではなかった。大体の先生は無駄話のプロである。
「はあ…………」
ため息に呼応して肩からずり落ちたスクールバッグを担ぎ直す。廊下を歩いていると、部活に精を出す男臭い掛け声やら、教室に残ってはしゃぐわざとらしい黄色い声やらが耳に入ってくる。
俺はその青春っぽさに嘘臭さを感じつつ、頭をゆらゆらと振って彼等彼女等の声を追い出した。帰ったらどうしよう。寝よう。
と、後ろから「よっ」と声をかけられた。あまり聞き覚えのない女子の声だった。
違う人に声をかけた可能性も否定出来ないので振り返るのに躊躇したが、無視するのは失礼にあたるため一応ちらっと振り返った。
「よっ。今から帰り?」
その女子はニコッと笑って片手を上げた。
俺に話しかけたのは同じクラスの確か山吹アリス。印象的な青い瞳に、染めてるのか地毛なのか分からない金髪。フランス人形並みに整った顔立ちをしている、明るくてよく喋る奴だ。
「あ、ああ。そっちも?」
無難というか適当に捉えられなくもない返事を返した。キョドらなかっただけ上出来。少なくとも中学時代の俺より成長してる。
「ワタシはこれからクラブ・アクティビティがあるから。ちなみにテニス」
「要は部活か……。で、何か用?」
俺は突然飛び出した横文字に驚き、要件を聞いた。特に縁のない相手に話しかけられたんだ、何か事務的なものがあるに違いない。
だが山吹はヒラヒラ手を振った。
「ウルフマンが見えたからちょっと声かけただけだよ。人と話すのに用とか理由なんていらないでしょ?」
「そういうもんか……。え、ウルフマンって俺?」
「そだよ。だって苗字狼月だし、クラスの中でも一匹狼だし。お気に召さない感じ?」
「別に……狼月でいい」
「ちぇー、却下された」
山吹は残念そうに笑うと、ところで、と俺の顔を覗き込む。
「来週から歴史の先生が変わるんだって。今の先生は確か産休とかなんとか」
「へー。詳しいのな」
「超どうでもいいって顔されたよー! 悲しいなぁ……おっと、ウルフマンとはここでお別れみたい」
道は二手に分かれていた。
「じゃーまた明日ねーウルフマン! Good Bye☆」
「おう」
山吹は俺にウィンクして、タタタっと走り去っていった。
独りになった俺は校門に向かう。
前にも言った気がするが、俺はあの手の皆に優しい女子が苦手だ。オタクやらぼっちやら「皆」に優しく、その優しさをうっかり恋愛感情と勘違いしてしまうからだ。
「山吹アリス……。まぁもう二度と会話もしないだろうけどな」
部活の喧騒をよそに、俺は自嘲気味に笑ってみせた。
そんな彼女がこれからの俺の学校生活に大きな影響を与えていくのは少し後の話。




