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第9話/夜は焼肉っしょ

 

 その頃。


「ギシャァァァァァァッ!」


 日が翳って冷えた空気を龍に変身したブネの咆哮が切り裂く。吸血鬼ヴァンパイアのヴラドは独り、巨大な龍と対峙していた。


「俺様ノ最強伝説ノ――糧ニナレ!」


 そう叫ぶと、ブネは口から高熱の炎を吐いた。ヴラドは無数のコウモリに姿を変え、逃れようとする。が、ヴラドは狼月との一戦で負った傷を引きずっていた。逃げ遅れた数匹のコウモリが炎に呑まれる。


「うぐっ……!」


 変身が解けたヴラドは地面に倒れた。身体の一部が奪われたのだ、無理はない。それに加えて、ヴラドの体力も限界に達していた。

 辺りに漂う、焦げた肉の臭い。


「……やあ、香ばしい香りだなぁ。今日の夜は焼肉にしよう」


「奇遇ダナ。俺様モ焼肉ノ気分ダ。尤モ、喰ウノハ家畜ジャナクテ、オ前ノ肉ダガナ」


「へえ……そいつは楽しみだ。胃袋から脱出するための針の用意をしないと」


 ――彼に、日本の「一寸法師」のジョークは伝わらなかったかな?


 激しい痛みの中、ヴラドはそんな事を気にしていた。


「変ナ事言イヤガッテ。モット本気ニナレ。“怪物最強”ノ二ツ名ハ、コンナモンジャナイダロ」


 ブネは、よっこらせっと立ち上がったヴラドに向かって言った。


「あはっ、バレちゃった? 君程度なら力抜いても勝てると思ったんだけどなー」


「フザケヤガッテ……!」


 ――ドウスレバ、コイツヲ本気ニ……?


 ヴラドを睨みつけながら考えあぐねるブネ。

 と、フェンスがカシャンと音を立てる。


「はぁ、はぁ……あっ、ヴラド君。と…………」


 狼月に言われて逃げて来た桃瀬がブネを見て硬直する。


「桃瀬さん! なぜここに⁉︎」


「なぜって、灰が安全な場所に逃げろって……。全然安全じゃないね、ここ。どうしよう」


 えへへと困った笑みを浮かべる桃瀬を優しい目で見るヴラドを見てブネは悟る。


 ――アノ女。


「アノ女ヲ殺セバ、オ前モ本気ニナッテクレル!」


 ブネは凶暴な笑みを桃瀬に向ける。


「お前! 桃瀬さんに手を出すな!」


 ヴラドがブネに飛びかかろうとするも、あえなく飛んできた丸太のような尻尾の餌食になる。


「ぐはっ!」


 ヴラドが宙を舞ったのを確認して、ブネは桃瀬に向かって高熱の炎を吐いた。


「うそ…………」


 絶望して立ち尽くす桃瀬。と、彼女の前に一陣の風が吹く。


 ボウッ!


 ブネの吐いた炎は桃瀬を捉えること無く、虚に散った。


 ――あれ、死なない?


 桃瀬が恐る恐る目を開けると、自分を抱き抱えた疾風宮みどりと目が合った。


「みどり君⁉︎」


 一陣の風の正体は疾風宮みどりだった。風魔法の加護を受けた疾風宮は、まさに疾風の如く間一髪で桃瀬を助けたのである。


「君は、同じクラスの……。風魔導師だったのか。桃瀬さんを安全な場所までお送りしてあげて!」


 ヴラドがテニスコート外の裏庭の疾風宮に声を張り上げる。


「分かってるよ、ウラン君!」


 負けじと遠くのヴラドに声を張り上げた疾風宮は、腰が抜けて歩けない桃瀬を連れて歩きだした。


「失敬な、僕はヴラド・ヘルブラウ・ツェベッシュだ!」


 ヴラドのその叫びは、届かなかったようだ。


「邪魔ガ入ッタガ、マア良イ。結社最強ノ俺様ガ、今度コソオ前ヲ殺ス!」


 ブネが、ギラギラ光る自分の鉤爪を恍惚とした表情で見つめる。


「殺す、ねぇ……」


 ヴラドがボソリと呟く。


「女の子に野蛮な真似する輩が、僕は一番嫌いなんだ。見てるとつい殺したくなる」


 伊達に怪物最強を名乗っていない、首筋にナイフを突きつけられたようなゾッとする笑み。同じ「殺す」なのに、言葉の重みが全く違う。


 ヴラドは今、本気で怒っていた。

 その怒りが、ついさっきまでの自分にブーメランとして帰ってくる事も忘れて。

 ……とにかく、ヴラドは今、本気で怒っているのだ。


「ギシャシャシャシャシャ! 満身創痍ノオ前ガ結社最強ノ俺様ヲ、殺ス⁉︎ アリ得ナイ!」


「良い事教えてあげよう。『闇を得た吸血鬼は怪物最強。だが――」


 言いながら、ヴラドの全身が無数のコウモリに変換されていく。


「全部焼キ尽クシテヤル! ギシャァァァァァァ!」


 ブネが高出力の炎を吐く。が――。

 無数のコウモリ達は、それらを全て避けてみ

 せた。


 群れをなしたコウモリ達はブネの鼻先で集まり、ヴラドへと姿が変わった。

 ヴラドはそこから、渾身の拳を放つ。


 ドガアッ!


 圧倒的な体格差をものともしないヴラドの怪力で、ブネを吹き飛ばす。


「――護るべきものを持った男もまた最強』だってさ」


 地に落ちながら変身が解けゆくブネを一瞥して、ヴラドは他人事みたいに言い放った。


二週間ほどお休みをいただきます。


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