Chapter 1 -Part. 9-
そして最後の夜になり、僕ら四人はビールやジュースを片手に二日間遊んだ砂浜に佇んで、静かにささやく波の音を聞いていた。
「明日はもう帰りなんて、本当につまらないね」
サオリがジュースを飲みながら残念そうに言った。
「まあ、楽しい時ほどすぐに終わっちゃうしな」
僕はビールを少し飲んで言った。
「一ヶ月くらいいられればいいのにね」
「そんなにいたら逆に疲れるだろ」
「結構楽しいかもよ」
ユキが割って入ってきた。
「ほら、さすがユキさんね。ヒロくんの彼女にしておくのはもったいないわ」
「おいおい」
コウジが窘めると、サオリは少し舌を出しておどけて見せた。
「まあ、この海とも今日でお別れだし、今夜はぱあっといきますか?」
僕がそう言うと、突然思いついたようにサオリがある提案をした。
「ねえ、せっかくここに来たんだから、サンドスキーやらない?」
「いいけど、そりはどうするの?」
ユキのその問いにはさすがのサオリも口をつぐんだが、コウジの一言がそこに光を与えた。
「あそこにダンボールが……」
見ると、波打ち際にダンボールが打ち上げられていたので、僕らはそれを使うことにした。
「じゃあ、二組に分かれて競争しない?」
「それいいな」
サオリの言葉に僕も同調し、四人でじゃんけんをした結果、僕とサオリ、そしてコウジとユキで組むことになった。
「ヒロくん、頑張ろうね」
「よっしゃ!」
僕とサオリは妙な闘志をみなぎらせて、コウジたちとともに坂の上のほうへ歩いた。
「よーい、スタート!」
僕の合図で、二組のそりならぬダンボールは砂の急斜面を一気に滑り出した。
「ヤッホー!」
「きゃあっ!」
僕らは、奇妙な叫びを夜空に響かせながら滑り降りていった。二組のダンボールは抜きつ抜かれつを繰り返したが、一番下に着いた時にはほとんど同時だった。僕らは笑いながらそのまま浜辺に寝転がり、去り行く夏を惜しみながら頭上に輝く星たちを眺めた。そして、その星空の中にユキとサオリを見たような気がした僕は、それでも必死にサオリの輝きを消そうとしていた。
それから何ヶ月かが足早に過ぎ去った。僕とユキは、今までと同じように近くの砂浜で時を重ねていた。ユキは僕の話を聞きながら時には黙って笑い、また時には優しく慰めてくれた。時々ふと見せる悲しげな表情を除いては、何もかもがいつも通りだった。と同時に、僕はサオリとも今まで通り会い、たまに遊びに行ったりしていた。そして、そんな時に見せるサオリの何気ない表情や仕草に少しずつ惹かれていく自分に戸惑いながらも、ただ時に流され続けていた。でもそんな日々が長く続くはずもなく、冬の到来と時を同じくして、僕とユキはある方向へと静かに流されていくことになった。