Chapter 6 -Part. 3-
そして自分のマンションに戻り、部屋のドアを開けようとした時、そこに一通の手紙が差し込まれていたので僕はそれを手に取って眺めた。差出人は……ユキだった。僕は部屋に入るのも忘れて、その場で封を開けて読み始めた。
Dear Hiro
こうやって、ヒロに手紙を書くのは初めてだね。でも、もう面と向かって言えそうにないので手紙にしました。今私は、友達のマンションに転がり込んでいます。あなたから離れた場所で、一人になっていろいろと考えたいから……突然引っ越しちゃってごめんなさい。でも私、もうあなたと顔を合わせるのが辛くて、あなたと顔を合わせたら、私何を言うかわからないし……この前、ハルカと三人でカレーを食べたあの夜、私あなたに聞いたわよね。サオリさんに会ったんでしょって。その前にハルカから話を聞いてたっていうのもあったんだけど、実は私、先月の土曜日の朝、あなたとサオリさんを見かけたの。私の会社があの駅の近くにあって、土曜日は出勤日だから、あの日も会社に向かって歩いてたんだけど、その途中で、ラブホテルからあなたとサオリさんが肩を抱き合って出てくるのを見てしまったの。私、一瞬体が凍りついたように動かなくなっちゃって、あなたたちが駅へ向かって歩いていくのをただ黙って見つめるしかなかった。その後、あなたと何回か会ったけど、私そのことを言い出せなくて……そんな時、ハルカから話を聞いて、ああ看病してたんだって一瞬は納得したんだけど、ラブホテルから楽しそうに、肩を抱き合いながら出てきた二人の姿が瞼の奥から離れなくて、いろいろな昔のこととかも思い出して、私もうどうしていいかわからなくて……多分あなたは、サオリさんとは何もなかったんだと思う。そう信じたいんだけど信じられなくて、そういう自分も嫌になって、耐えられなくなって、それで思い切って引っ越したの。自分の気持ちの整理もつけたいし、今あなたに会っても、私きっと嫌な女になるし……あなたのこと大好きだけど、しばらく考える時間をください。そしてそれでも二人の気持ちが、私の気持ちが確かなものだったら、クリスマスイブの夜に昔よく行った海辺の公園で待ってます。
では、再び会えることを祈って……。
僕はその手紙を何回も読み返し、それから深く大きなため息をついた。そう、僕は今こそ生涯で最大の後悔をしていた。いや、それは後悔というありふれた言葉では表現できないほどに深い絶望感だった。理由はどうあれ、僕は一度ならず二度までもユキを傷つけてしまったのだ。自分の生涯の中で最も大切なものを……。
それからの僕の時間はその大部分を、いやほとんど全てをユキとのことを考える時間に費やした。僕はもう二度と自分の気持ちが、そして行動さえもが揺れ動かないようにただユキのことだけを想い続けた。仕事も、ハルカやメグミの声さえ僕には届かなかった。正確に言えばその声は耳には届いていたのだが、頭の中で理解することができなかった。いや、僕はあえてそれをしなかったのだ。僕は秋の深まりと冬の到来をその心に感じることもなく、そうしてただひたすらにクリスマスイブを待ち続けた。