Chapter 6 -Part. 2-
それから一週間というもの、ユキからの連絡は全くなかった。僕はユキの携帯や部屋に何度も電話したが、ただの一度も繋がることはなかった。ユキの会社にも電話したが、休暇を取っているらしく話をすることができなかった。僕は次第に居たたまれなくなり、次の土曜日に思いきってユキのマンションを訪ねた。僕は何度も部屋のドアを叩いたが、ユキが出てくることはなかった。すると隣の部屋の人が出てきて、彼女は引っ越したとぽつりと呟いた。その唐突さは、僕に一瞬時間の流れが止まってしまったかのような錯覚をもたらした。でも、時間は永久不変に流れていた。その緩やかな時間の流れの中で、彼女は……ユキは再び僕の目の前から姿を消してしまった。
僕はしばらくの間、ユキがいなくなってしまった事実にうまく馴染めなかった。このドアを開ければ、ユキが笑顔で僕を出迎えてくれるような気がしてならなかった。でも、少なくともユキは既にここにはいなかった。僕はそれでも何とか自分を取り戻すと、思い立ってハルカの携帯に電話をした。親友であるハルカなら、ユキの居場所を知っているかもしれないと思ったからだ。
「もしもし、ハルカか? ユキの居場所知らないか?」
「もしもし、誰……マツダくん? どうしたの、そんなに慌てて」
「今、ユキのマンションにいるんだけど、いなくなっちゃったんだ。引っ越してどこかへ行っちゃったんだ。ハルカ、知らないか? ユキがどこへ行ったか……知らないか?」
「ちょっとマツダくん、落ち着いて。ユキがいないの? とにかく、すぐにそっちへ行くから待っててよ。いいわね」
ハルカはそう言うと電話を切った。僕はしばらく切れた携帯を耳にあてていたが、やがて電源を切るとユキの部屋のドアをじっと見つめた。何故……どうして? 確かに理由はどうあれ、サオリとホテルで一晩過ごしたことは軽率だった。そして、それを黙っていたことも悪い。でも、だからと言ってどうして急にいなくなってしまうんだ……僕は二度と開くことのないドアに向かって、そうしてひたすらに語りかけていた。
どれだけ時間が経ったろう、ふと横を見ると、そこには息を切らして駆け寄ってきたハルカの姿があった。
「はあはあ……どうしたのよ? 何がどうなってるの? ユキ、いないの?」
「さっき隣の人が出てきて、ユキが引っ越したって」
「まさか……私、そんなこと聞いていないわよ」
「やっぱり、俺のせいなんだろうな」
「ねえ、何かあったの?」
僕はこの前の、三人でカレーを食べた夜のことを話した。ハルカは終始黙って僕の話を聞いていた。そして僕が話し終わってからしばらく考えた後、ゆっくりと話し始めた。
「そうだったの……一晩中看病してた女の子って、サオリさんだっけ? マツダくんの前の彼女だったんだ。実は少し前に、私ユキに聞いたことがあったの。どうして昔、マツダくんと別れたのかって。ユキ、ある女の子のことをマツダくんが好きになったからだって言ってたっけ。その子がサオリさんだったんだ……ねえマツダくん、その夜のことは私も仕方ないと思うわ。でも少なくとも、ユキには正直に言うべきだったわね。それに、何年か前のこともあるみたいだし、ユキがサオリさんの名前を聞いて神経質になっていたのかもしれない……あの子、結構ナイーヴなとこあるから。でも、それだけで引っ越しまでするかしら? マツダくん、他に心当たりないの?」
「いや、全然わからない」
「そう……とにかく、ユキも大人だし変なことは考えないだろうけど、とりあえず私、ユキの実家にそれとなく電話してみる。マツダくんも、ユキの居場所に心当たりがあったら調べてみて」
ハルカはそう言うと、急いで僕のもとを去っていった。ユキの居場所と言っても僕には皆目見当がつかなかったが、ここにいても仕方がないことは明らかなので、僕はとりあえずユキの部屋を後にした。