Chapter 5 -Part. 6-
そして月曜日、僕がいつものように会社の売店で缶コーヒーを買っていると、メグミが急に後ろから話しかけてきた。
「あっ、またそのコーヒーですね。私もそれにしようっと」
「あっ、金曜日はお疲れさま」
「すみませんでした。私、サオリのことをマツダさんに押し付けて、ホンダさんと飲みに行っちゃって」
「気にしなくていいんだよ。それで、ホンダとは盛り上がった?」
「はい。ホンダさん、とても面白くて、私ずっと笑いっぱなしでした」
「じゃあ、うまくいったってわけだ」
「ええ、でも友達としてはいいけど、恋人となるとちょっと……」
「あっそうか、メグミちゃん、確か好きな人いるんだよね」
「え、ええ、まあ……あっ、それよりサオリどうでした?」
「うん、実はさ、帰りに雨が降り出したんだけど、サオリちゃん熱があって、ちょっと帰れそうになかったから、駅前のホテルに泊まって寝かせておいたんだ。あっ、もちろん看病してたんだから、変なことはしてないぜ」
「わかってますよ。マツダさんがそんなことしない人だって……でも、そうだったんですか。確かに元気なかったけど、彼と別れたことが原因なのかなって思ってたんですけど、熱があったんですね」
「でも、朝になったら熱も下がったみたいだし、一人で電車で帰ったからもう大丈夫だと思うよ」
「そうですか。でも今夜、一応電話してみます」
「そうだね、それがいいよ」
「マツダさん、本当にありがとうございました。いろいろ盛り上げてもらって、挙句の果てにサオリの病気の看病までしてもらって……本当にマツダさんって優しいですね。じゃあ失礼します」
そう言うとメグミは、その場を足早に去っていった。さすがにラブホテルに泊まったとは言えなかったが、メグミに金曜日の夜のことを話せたことで、何となく僕の胸のつかえが取れたような気がした。もちろん、サオリとの間に後ろめたいことはなかったのだが、他の誰にも話さないでいると、それがどことなく秘密めいたことのように感じられたからだ。
その週末、僕は会社の近くの居酒屋でスズキと二人で飲んでいた。最近仕事が忙しかったせいもあって、メグミたちと一緒に飲むことはあっても二人で飲むことはなかったので、僕らは久しぶりにいろいろなことを語り合った。
「でもスズキ、ヒトミちゃんとうまくいってよかったな」
「ああ、お前とメグミちゃんのおかげだよ。お前たちがセッティングしてくれてなかったら、俺とヒトミは多分会うことはなかったからな。本当に感謝してるよ」
「でも最終的に頑張ったのはお前だからな。まあ、幸せになれよ」
「俺のことはともかく、お前のほうはどうなんだよ。お前の彼女……確かユキちゃんって言ったっけ、うまくいってるのか?」
「ああ、まあな」
「何だよ、随分歯切れが悪いじゃないか。さては喧嘩でもしたのか?」
「いや、ユキとはすごくうまくいってるんだけど」
僕はスズキにサオリのことを話した。学生の頃のことも含めて、洗いざらいを全て話した。
「そうか……まあ、俺は難しいことはよくわからないけど、お前は今、ユキちゃんのことが好きなんだろ? 彼女を愛してるんだろ? だったら彼女を大切にしてやれよ。サオリちゃんのことはもう忘れろ。それが一番だ」
「もちろん、そのつもりだけど」
「そんなにうじうじするな。つもり、じゃなくて、ユキちゃんを大切にしろ。それでいいじゃないか。何も迷うことなんてないんだ」
「そうだな……よし、決めた。俺はユキを精一杯幸せにする」
「そうこなくっちゃ。よし、今夜はじゃんじゃん飲もう。明日は休みだからな」
それから、僕とスズキは終電がなくなるまで飲み続けた。僕はスズキと話したことで、あれこれと悩んでいる自分を捨てることができた。そう、過去のことはどうあれ僕はユキと幸せになるんだ……気持ちよく酔っていく頭の中で、でも僕ははっきりとそのことを心に誓っていた。