Chapter 5 -Part. 4-
そして一週間ほど経った金曜日、会社が終わると、僕はスズキと後輩を連れて四月に飲み会をしたビアレストランへ向かった。メグミが、同じ場所でいいですねと言ってそこを予約していたのだ。店内に入るとこの前と同様の喧騒が支配していたが、今度はメグミたちを容易に探すことができた。メグミが、入口からよく見えるテーブルを予約しておいたからだ。僕らはメグミたちと軽く挨拶を交わすと、あてがわれたテーブルの席についた。僕の目の前には少しやつれ気味に見えるサオリが、それでも周りに笑顔を見せて座っていた。僕はそんなサオリの姿に、かつての元気だった姿とは別の女性を見ているような気がして少し哀しい気持ちになった。
やがて飲み物が揃ったところで、僕ら六人は以前と同じように乾杯した。僕らはサオリを励まそうと、いつも以上に高いテンションでいろいろな話をして盛り上がった。特にメグミは、終始サオリを気遣いながら、それでも楽しそうに振舞っていて、僕はそんな姿に少なからず感動を覚えていた。サオリも、本心は別にしても結構楽しそうに話していたので、僕はほっとしながら、それでも懸命にその場を盛り上げた。
そんな風にして二時間ほどが過ぎ、お決まりのようにカラオケに行こうということになり僕らは外に出た。僕は、今日は最後まで付き合ってサオリを励まそうと決めていたので、みんなと一緒にカラオケボックスに行き、歌を歌いながら盛り上がった。サオリは自分から歌おうとはしなかったが、それでもみんなの歌を聞いて楽しそうに笑ったりしていた。僕はそんなサオリの姿を横目で見ながら、メグミと一緒に笑える曲や明るい曲を意識的に選んで歌い、そして騒いだ。みんながそれぞれに、サオリのためにこの場を作り上げていることを肌で感じ、僕は今日の飲み会をやって本当によかったと思った。そして今日集まったこのメンバーに対して、深い感謝の気持ちで一杯になった。
そうして時間が瞬く間に流れ、僕らは店の前で解散した。スズキはヒトミとタクシーで帰り、後輩は……名前はホンダというのだがメグミと意気投合したようで、二人で次の店に行くと言って去っていった。僕はサオリと二人で駅へ向かって歩き出したが、二人の間に会話はなく、僕も何を言ったらいいのかわからなくなり、そのままの沈黙が流れる中ゆっくりと歩を進めた。そして駅近くの歩道橋まで来た時、前を歩いていたサオリが急にこちらを向いて話してきた。
「今日はありがとう。久しぶりに楽しかったわ。みんな優しいし……また飲もうね」
「手紙読んだよ。ごめん……俺はもう、サオリには何もしてあげられない。今日もメグミちゃんからみんなで飲もうって言われて、手紙のこともあったから来たけれど、やっぱり俺、サオリとは会うわけにはいかないんだ……ごめんな」
「そんな風に謝らないで。余計に哀しくなるから……わかってるの、ヒロに頼っちゃいけないって。でも駄目なの。もう、心を支えていたものがなくなっちゃって、どうしたらいいかわからないの。今だって、もしヒロがいてくれなかったら、私ここから飛び降りちゃうかも」
「サオリ!」
「大丈夫よ。でも私って本当に馬鹿ね。どうしてあの時、ヒロと別れちゃったんだろう。どうして……ねえ、私たちやり直せないのかな?」
「サオリ」
「ヒロ……」
サオリはそうして、泣きながら僕の胸に飛び込んできた。僕はしばらくの間、サオリを抱き締めていいものかどうか迷っていたが、いつしかその温かい体をしっかりと受け止めていた。そう、それは本当に無意識の行為であり、僕はその時サオリに対して深く同情していた。いや、同情の他に一片の愛情があったこともまた事実だったが、その種類はユキへのものとは明らかに異なっていた。むしろそれは、切ない慕情とでもいうべきものだった。