Chapter 5 -Part. 3-
でも、そんな風に永遠に続くように思えた無人島の生活にも終焉の時がやってきた。予定していた一週間は瞬く間に過ぎ、僕らは飛行機で自動的に日本に戻った。成田に着いた僕らは本当に無人島から帰ってきたような感じを受け、そこから自力で戻ってきた自分たちに本当にうんざりした。ユキが疲れていたので僕は彼女をマンションまで送り、それから自分の部屋へ帰ってくると、郵便受けに一通の手紙が入っていた。宛先は僕の実家になっていて、おそらく僕の親がそうしたのだろう、宛先が書き換えられていた。僕がその手紙を裏に返すと、そこには見覚えのある差出人の名前が書かれていた。
そう、それはサオリからの手紙だった。僕はカギを開けて部屋に入ると、旅行の荷物を放り出し、ベッドに座ってその封を開けた。
ヒロへ
久しぶり……確かヒロに手紙を出すのは二度目だね。お元気ですか? 突然の手紙、迷惑だよね。でも私、もうどうしていいかわからなくて、頼れるのヒロしかいなくて、それで迷惑を承知で手紙を出しました。五月に電話しちゃったこと、ごめんなさい。四月に久しぶりに会って、二人で楽しく飲んで、またヒロといろいろなことが話せるのかなって勝手に思って、つい気楽に電話しちゃいました。そうだよね、ヒロにはもうユキさんっていう恋人がいるんだし、いくら友達って言っても、私たち前に付き合っていたんだもんね。しかも、ヒロが前にユキさんと別れた原因だって私にあるわけだし……そう都合よくいかないよね。あの電話の後、すごく反省しました。だから、もう連絡取ったり会ったりするのは止めようって思ったの。でも、私どうしていいかわからなくて、相談できるのヒロぐらいしかいないから……実は私、コウジと別れたの。コウジ、他に好きな女の子ができたらしくて、会社の同僚みたいなんだけど、この間もうお前とはやっていけないって言われて、最初のうちは何がなんだかわからなくて、泣くこともできなかった。だって、私たち二年以上付き合って、結婚の約束までして、二人の世界が壊れるなんて本当に想像もしていなかったの。でも今になって、ああ別れちゃったんだなあって痛感して、それでどうしようもなく寂しくなって、虚しくなって……ごめんね、こんなこと言われたってヒロは困っちゃうよね。でも、どうしようもないの……だから、できたら会って話がしたいなって思いました。返事待ってます。それでは、さようなら。
手紙はそうして終わっていた。僕はもう一度ゆっくりと読み返し、それからベッドに横になってぼんやりと天井を見つめた。サオリがコウジと別れた……その事実はあまりにも唐突で、僕にはうまく理解できなかった。と同時に、思い出の彼方にあったサオリのことが再び目の前を過ぎり、一瞬ではあったがどうしようもなく切ない気持ちになった。でも僕は、サオリと会うわけにはいかなかった。もう二度と同じ過ちを繰り返さないためにも……。
それからしばらくして、僕は会社のプロジェクトの打ち上げで、メグミを含めた同僚たちと飲む機会をもった。プロジェクトは細かいミスはあったものの無事に終了し、僕は久しぶりに仕事を終えた充実感と満足感で気持ちよく酒を飲んだ。
「でもマツダさん、プロジェクトが無事に終わって本当によかったですね」
気がつくと、隣には少し酔ったらしく、頬を少し赤くしたメグミが座っていた。
「ああ、メグミちゃんもよく頑張ってくれたね。本当に感謝してるよ」
「お礼なんて、マツダさんのためだもの。私いくらでも頑張ります。だって私……」
「えっ?」
「いえ、何でもないんです。それよりマツダさん、覚えてます? 四月にやった飲み会の時に来てた、私の短大時代のクラスメートのサオリ」
「ああ、何となくは」
「あの子、本当は彼氏がいたみたいなんですけど、最近別れたみたいですごく落ち込んでるんです。私も何度も電話したりしてるんですけど、やっぱり元気なくて……結婚の約束までしてたみたいだから相当ショックみたいで」
「そうなんだ」
「あの、もしよかったら、私と一緒にサオリを励ましてもらえませんか?」
「励ますって言ったって……」
「別に特別なことはしなくてもいいんです。ただお酒でも飲んで、みんなでぱあっと騒いだら、少しは気が晴れるかなって。スズキさんやヒトミも呼んで、前のメンバーでやれたらなって……駄目ですか?」
「そうだな。確かにみんなで楽しくやれば、彼女の気も紛れるかもな」
「ありがとうございます。じゃあ、さっそくセッティングしますね」
思いも寄らないこの展開に、正直僕は運命のルーレットを回された感じを受けたが、かといって断るのも変だったので、心ならずもメグミの提案を受け入れることにした。今の僕なら、今の僕の気持ちなら、たとえサオリに会ったとしても心の揺れはないだろうと、自分自身に理由のない自信を持っていたからでもあった。でもそのことが、僕自身を決定的に損ねることになろうとは、その時の僕には知る由もなかった。