表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dolphin Story  作者: hiro2001
27/38

Chapter 4 -Part. 7-

 やがて時間の経過とともにその場はお開きになり、二次会にカラオケに行こうということになったが、僕はとてもそんな気になれず、メグミには悪いとは思ったが一人こっそりと抜け出してみんなとは反対の方向に歩き始めた。すると、後ろのほうから女の声がしたので振り向くと、そこには息を切らして駆けてくるサオリがいた。

「はあはあ……ヒロ、早足なんだもん。追いつくの大変……」

 僕は何と声をかけていいかわからず、ただ黙ってサオリの姿を眺めていた。

「どうしてカラオケ行かないの?」

「ああ、ちょっと疲れちゃって」

「そう……ねえ、どこかで話しない? 久しぶりだもん。ね、いいでしょ?」

 僕らは近くにあったショットバーに入り、隣り合わせに座った。僕はウィスキーを、サオリはカルアミルクを注文した。

「そう言えば、昔はこういう店に来たことなかったよね?」

「そうだったかな?」

「うん、何か不思議な気がする。ねえ、二年ぶりだよね、私たち」

「そうだな」

「二年なんてあっという間ね」

 そうして懐かしさに浸っているサオリを横目に、僕はただ黙ってウィスキーを飲み続けた。一杯そして二杯……でも三杯目を飲み始める頃には、僕はこの中途半端な状況に我慢できなくなっていた。僕は彼女と、今隣に座っているサオリとは二年前に別れたのだ。そして、僕は今サオリと昔の思い出話をしているような場合ではないのだ。僕は三杯目のウィスキーを飲み干してから、思い切ってサオリに尋ねた。

「サオリ、コウジくんとはうまくいってるのか?」

「ええ……実は私、コウジと結婚することにしたの。いつになるかわからないけど」

「そうなんだ。おめでとう……なあ、ひとつ聞いてもいいか?」

「何?」

「二年前、俺に手紙くれたよな。イルカのネックレスと一緒に……俺、正直あの時とてもショックだった。何故? どうして……何度も自分に問いかけた。サオリに電話しようとも思った。でもやめた。ずっと前にサオリが言った言葉を思い出したんだ。人の気持ちって、強いけど儚いものなんじゃないかっていう言葉……そうなんだろうなって思った。そんなもんなんだろうなって。サオリ、今さら聞いても仕方ないんだけど、二年前は俺よりもコウジくんのほうが好きだったのか?」

 僕のこの問いかけに、サオリはしばらくうつむいたまま答えなかった。でも、僕は我慢強く次の言葉を待った。どれくらいの時間が経ったろうか、サオリが静かに口を開いた。

「うまく言えないんだけど、元々ヒロとは幼なじみだったし、気心も知れてたし、根っこの部分で繋がっていたような気がするの。それが三年前に付き合うことになって、いろいろな所に行って、いろいろな話をしてすごく分かり合えたし、幸せだったし、このままずっといたいって思った。でも、ある時からあまり会えなくなって、寂しくて、でも少し離れてみていろいろなことを考えるようになったの。するとね、ただ一緒にいて幸せで、それだけじゃいけないんじゃないかって……本当にうまく言えないんだけど、そんな風に考えて、ふとヒロを見た時、ああ、私この人に何かしてあげられるのかなって……でも結局何もしてあげられないまま、辛そうなヒロをひたすらに見続けるようになって、そういう自分にも耐えられなくて……ごめんなさい、本当にうまく言えてないね。ヒロとコウジとどっちが好きって言うんじゃなくて、ヒロとの場合は、もっと根っこの部分で分かり合いたかったの。そして、それは男と女という関係とは違うっていうことだと思ったから、友達に……なんて手紙に書いちゃったけど、ごめんなさい」

「謝ることはないよ……わかった、もうよそう。でも驚いたな。まさかメグミちゃんがサオリを連れてくるなんて、本当にびっくりしたよ」

「メグミと私、短大のクラスメートなの。メグミから話を聞いた時、私、ひょっとしたらヒロに会えるんじゃないかと思って、コウジのことは隠して来てみたの。でも、まさか本当にヒロがいるなんてね。私もびっくりしたわ」

「実は俺、今ユキと付き合ってるんだ。この前偶然に会って、それでまたやり直そうってことになって」

「そう、よかったじゃない。ヒロとユキさんならお似合いね」

「よし、今日はじゃんじゃん飲もう」

「そうね。でも酔っ払ったら介抱してね」

「ああ、その辺に横にして置いとくよ」

「それ、すっごいムカツク!」

 僕とサオリはそうして長い間飲み続けた。でも僕は、これでサオリと会うのは最後にしようと思った。サオリとのことは、いずれにしても既に過去のことだった。一度進んでしまった時の流れは、もう元には戻らない……セピア色の思い出は、セピア色のままが一番美しいのだ。僕は、目の前にあるウィスキーの氷が溶けていくのを見ながらふとそんなことを感じていた。

 僕とサオリはそうして夜遅くまで飲み続け、そして別れた。サオリはまだ鎌倉に住んでいたので、僕らは駅からそれぞれ反対方向の電車に乗った。ああ、これでサオリと会うのも最後なんだな……僕は一抹の寂しさを振り払うように頭を左右に振った。そうしたことでかえって酔いは回ったが、逆に気持ちのほうはすっきりした。僕は今過去を振り切り、前へ向かってゆっくりと歩き出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ