Chapter 4 -Part. 6-
次の日の夜、僕とメグミは会社の出口で待ち合わせ、会社とは駅を挟んで反対側にある日本料理の店に向かった。メグミのお勧めの店のようで、店内に入ると落ち着いた雰囲気が漂い、でも押し付けがましい高級感もなくとてもいい店だった。メグミは予約を入れておいたらしく、彼女が店員に名前を告げると程なく奥の座敷へと通された。
「予約しておいてくれてたんだ」
「この店すぐに一杯になっちゃうんで、昨日あれからすぐに電話しておいたんです」
「メグミちゃん、よくこの店来るんだ」
「ええ、会社に近いんで、同期の女の子とよく来るんです。雰囲気もいいし、でも値段は高くないし、お勧めですね」
僕らが座敷に座ると、店員が今日の料理の説明をした。感じのいい店員で気配りも行き届いていた。
「メグミちゃん、和食好きなんだ」
「ええ、イタメシなんかよりもやっぱり和食ですね」
やがて少しずつ料理が運ばれてきた。どの料理も品があり、かといってどこか懐かしい感じのする味がして、僕はいつも以上に箸を動かした。
「ところでマツダさん、同じ会社のスズキさんって知ってますか?」
「ああ、知ってるも何も俺の同期だよ」
「本当ですか? 実は、私の同期にスズキさんのことをすごく好きな子がいるんですが、もしマツダさんが迷惑でなかったら、スズキさんを誘って飲みにでも行きませんか?」
「いいね、やろうよ。確かスズキも彼女いないって言ってたし、ちょうどいいかもな。わかった、スズキには俺から話しておくよ」
「ありがとうございます。それで……マツダさんは、彼女とかいるんですか?」
「ああ、まあ……」
「そうなんですか……そうですよね、わかりました。それじゃあ、詳しいことが決まったら連絡しますね」
メグミはそう言うと、グラスに残っていたビールを一気に飲み干した。思わぬ展開ではあったが、スズキのためでもあるし、ここは一役買おうと僕もビールを一気に飲んだ。もっとも僕は、メグミの気持ちに気がついてはいなかったが、彼女の自然な明るさに不思議な爽快感を抱いていたのもまた事実だった。
それから一週間が経ったある日の夜、僕はスズキと会社の後輩を連れて会場へと向かった。そこはカジュアルなビアレストランで、店内が混雑していたせいで僕はメグミを見つけるのに苦労したが、やがて奥のほうの席からこちらに手を振るメグミが見えたので、僕らはその席に近づいていった。
「マツダさーん、ここです!」
「見つけるのに苦労したよ」
そう言ってメグミの隣の女の子を見た瞬間、僕はあまりの驚きに声を失った。偶然に操られたマリオネットは、もはや自分で動くこともできなくなっていた。髪形が変わり少し大人っぽくなってはいたが、それはまぎれもなくサオリだった。どうしてサオリがここにいるのか……僕は、偶然というにはあまりにも偶然なこの再会にただ戸惑っていた。サオリもこちらに気がついたらしく、しばらく僕のほうをじっと見ていたが、やがて僕から目をそらしてうつむいた。
「マツダさん、何ぼおっとしてるんですか? さっ、座ってください」
メグミのこの一言に僕はやっと我に返り、スズキたちとともに席に着いた。
「へえ、みんな可愛いじゃないか」
「あ、ああ……」
スズキの言葉にも僕はうわの空だった。僕は目の前にいるサオリに何と言おうか、ただそれだけで頭が一杯だった。
「さあ、これでみんな揃ったことだし、さっそく乾杯しましょうか?」
メグミは、そんな僕の動揺を知ってか知らずか乾杯の音頭をとり、少し経ってから僕らはお決まりの自己紹介をした。その最中も、僕はサオリのことが気になって仕方がなかった。サオリはスズキやメグミたちと楽しく話していて、僕のことなど眼中にないようだった。僕はその場に居たたまれず、たまに心配そうに声をかけてくれるメグミの話もほとんど耳に入らなかった。サオリに会えた喜びもあったが、それよりもまず僕は、この不安定で居心地の悪い状況から逃げたい一心で頭が一杯だった。