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Dolphin Story  作者: hiro2001
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Chapter 4 -Part. 5-

 次の日、いつものように僕が会社の食堂で昼飯を食べていると、ハルカが僕の隣に座って話しかけてきた。

「ねえ、どうだった?」

「どうだったって?」

「何よ、とぼけちゃって。ユキとどうだったのよ。うまくいった?」

「まあな」

「そう、よかった。実は、ちょっと心配だったんだ。ひょっとして、あのまま二人とも駄目だったんじゃないかって。だって、雰囲気あんまりよくなかったから」

「実は俺、ユキと昔付き合ってたんだ。もう四年も前の話だけど……付き合ったのは一年足らずだったけど、まさかハルカの友達だったなんて。それでびっくりしたんだ」

「そうなの? じゃあ私、悪いことしちゃったかな?」

「そんなことないよ。むしろハルカに感謝してるんだ。俺たち、また付き合うことにしたんだ」

 僕がそう言った瞬間、不安げだったハルカの表情が、見る見るうちに明るくなっていくのが手に取るようにわかった。

「よかった。マツダくんがユキと付き合うことになって。私、とても嬉しい。ユキは私の大切な友達だし、相手がマツダくんなら安心だわ。これからユキのことよろしくね。あの子本当にいい子よ……あっ、もうわかってるわね」

「ハルカ、本当にありがとう。偶然とはいえユキとまためぐり合えたのも、ハルカのおかげだよ。本当にありがとう」

「何言ってるのよ。前にも言ったでしょ? マツダくんは私にとって大切な人だって……あっ、もうこんな時間。午後一番で大事な打ち合わせがあるから、じゃあまたね」

 ハルカはそう言うと慌しく食堂を出ていった。僕はそんなハルカに対して、ただ感謝の気持ちで一杯だった。と同時に、ハルカとユキが友達だったことを神様に深く感謝してもいた。


 その日の午後、僕が得意先へ行くために会社から駅に向かって舗道を歩いていると、一人の女の子が倒れていたのが視界に入ってきたので、僕は思わず声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「あっ、大丈夫です。ちょっとヒールのかかとが取れちゃって……」

 よく見ると、彼女はヒールのかかとを舗道の窪みに挟んだらしく、かかとの部分がヒールから取れて道端に転がり、その膝からはうっすらと血が滲んでいた。

「足から血が出てるじゃないか。ちょっと待ってて」

 僕はハンカチで彼女の膝から滲んでいた血を拭き取ると、ポケットから絆創膏を取り出してその傷に貼った。

「とりあえず、怪我のほうはこれで平気だと思うけど、ヒールのほうがな……あっ、確か駅の近くに靴屋があったから、そこでとりあえず直してもらうか、新しいのを買えばいいよ。さあ、俺の肩に掴まって、駅はすぐそこだから行こう」

「いろいろ……すみません」

 僕は彼女に肩を貸して、駅前の靴屋まで一緒に歩いた。彼女はしきりに僕に対して謝っていたが、僕はそれをただ笑顔で交わした。十分くらいで靴屋に着いたので、僕はひたすら謝り続けるその女の子と別れ、駅から電車に乗り込んだ。この偶然の出会いが、後に僕に何をもたらすかも知らずに……。


 それから何日かが過ぎたある日、僕が会社の廊下を歩いていると、突然女の声で背後から声をかけられた。

「あの、すみません」

 その言葉に振り返った僕は、見覚えのある顔がそこにあることにとても驚いた。そう、その時の僕はまるで偶然に操られたマリオネットのようだった。

「この前は、助けてもらってどうもありがとうございました」

 僕がその記憶を取り戻すまでに、それほどの時間はかからなかった。そう、あの時の駅まで付き添ってあげたヒールのかかとの女の子だった。

「……ああ、どう? 大丈夫だった?」

「はい、おかげさまで、ヒールも直してもらって、足の傷ももう治りました」

「そう、それはよかったね。でも、どうしてここに?」

「あ、はい、私ここの社員なんです。短大を卒業して、入社して三年目になります。でもびっくりしました。さっき見かけた時、もしかしたら違うんじゃないかと思ったんですがやっぱり間違いないと思って……この前のお礼が言いたくて、本当にありがとうございました」

「もういいんだよ。それに、お礼はこの前たくさん聞いたし」

「でも、改めて言っておきたかったんです。私、メグミっていいます。ところで……この前のお礼も兼ねて、食事でもどうかなって思ってるんですけど、夜とか空いてる日あります?」

「いいんだよ、気遣わなくても」

「いえ、お礼させてください。でないと私の気が収まらないんです」

「そう……じゃあ、ごちそうになろうかな。今日は仕事あるから、明日の夜でいい?」

「明日ですね、わかりました。それじゃ、えーと……すみません、名前は」

「あっ、そうか、まだ俺の名前言ってなかったね。マツダっていいます、よろしく」

「マツダさんですね。それじゃあまた」

 その女の子……メグミは、そう言うと廊下を足早に歩いていった。僕は、あの女の子がこの会社にいた偶然にまだ慣れていなかったが、何か新しい風が吹き込んだようにも思えてその後ろ姿を黙って見送った。

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