Chapter 4 -Part. 1-
あの時、そうイルカのネックレスを海に投げてから二年の月日が流れた。今思い返せば二年なんてあっという間だった。いや、一日一日は長かったけれど、二年をまとめて振り返れば短く思えるだけなのかもしれない。いずれにしても、二年という期間はあっという間に過ぎ去った。僕は、相変わらず同じ会社で砂漠に水をまく仕事を続けていた。サオリと別れた直後は会社でも仕事に身が入らず、ミスばかりしていたが、最近ではそれも過去のことになった。本当に、時の流れというものは人の心を癒してくれるものだ。今でも、時々サオリやユキのことを思い出すとどうしようもなく胸が苦しくなるが、いずれはそういうこともなくなるのだろう。そしてその時こそ、二人とのことが思い出になる瞬間なのだろう。季節は春真っ盛りで、駅から会社へと至る道路沿いにある桜の木々からは、桃色の花びらがまるで天使のようにひらひらと舞い落ち、路面をじゅうたんのように敷き詰めていた。季節の移り変わりは、本当に当たり前のようにやってくるのだ。
そんな四月のある日、僕が会社の食堂で昼飯を食べていると、一人の女の子が隣に座り僕に向かって話しかけてきた。そう、それはまぎれもなくハルカだった。
「マツダくん、今度の日曜日引っ越すの?」
「ああ、そのつもりだけど」
「手伝いに行こうか?」
「いいよ。ハルカだって、結婚式近いんだからいろいろと忙しいだろ?」
「まあ、そうだけど……でもほら、たまには気晴らししないとね」
「おいおい、俺の引越しの手伝いが気晴らしかよ」
「まあいいじゃない。ねっ、私意外と役に立つわよ」
「まあ、いいけどさ」
「じゃあ、今度の日曜日に家に行くから」
ハルカはそう言うと、そのまま席を立って食堂を出ていった。確かに僕は、今度の日曜日に、実家の鎌倉から都心に程近いマンションに引っ越すことにしていた。毎日の通勤が辛かったこともあったが、親と一緒に住んでいると何かと自由がきかないこともあって、この際思い切って一人暮らしをすることにしたのだ。生活はかなり苦しくなるが、一人暮らしの気楽さもあり、僕は結構楽しみにしていた。ハルカには、少し前に同期で飲んだ時に言っておいたのだが、まさか手伝いに来るとは思っていなかったので正直なところ驚いた。ハルカは六月に結婚を控えていて、それどころではないと思っていたからだ。相手は僕の知らない男で、まあそれはどうでもいいことなのだが、知り合って三ヶ月というスピードだった。僕が初めてそのことを聞いた時は、その唐突さに本当に驚いたものだった。でも、結局そんなものなのだろう。人生なんて一寸先には何があるかわからないのだ。