宇宙を愛する君に、僕は初恋に落ちました。
桜が舞う4月。
窓からは、楽しそうな笑い声が聞こえて、僕は1つため息を吐く。
なぜ僕は始業式というハッピーな日に、わざわざ居残りまでして重たいプリントを運んでいるのだろうか?
「僕が断れないのがいけないんだけどっ・・・だからって、毎回僕に頼まなくったっていいじゃないか」
僕はぶつぶつと呟きながら、しょっちゅう仕事を押し付けてくる担任の、あの忌々しい顔を思い出して、顔をしかめた。
あの教師はいつもそうなのだ。僕が頼み事は断れない性格だと知ったうえで、労働を僕に押し付ける。プリント運びなんてもう7回目だ。他にも実験用具を運んでくれだの、薬品を測ってほしいだの。しまいには忘れ物をしたから職員室まで取りに行ってほしいとまで言い出した。
「僕は先生のパシリじゃないよっ!もうほんと性格悪い、性格悪い~!!」
それでも、直接そんなことは言えずにいつも素直に従ってしまう自分の意気地なさが一番悪いんだよな~・・・。
自分のダメダメさにもう一つため息を吐いたところで、ようやく理科室に辿り着いた。机の上にプリントをドサッと置き、重みから解放された腕をぐるぐると回す。
ーその時、廊下のほうから
「ら~ららら~♪」
という楽しそうな歌が聞こえてきた。
誰だろう?と気になり窓から顔を出すと、望遠鏡を抱えながらよてよて歩く小さい女の子が見えた。
体が揺れるたびに、ふわふわと揺れる茶色い髪に、少し舌っ足らずな声。
「何あれ・・・可愛い・・・」
思わずつぶやいた声に、少し焦るが幸い小さかったためか相手には聞こえなかったらしい。そのまま廊下の角を曲がり、一瞬ちらっとこっちを見て・・行ってしまった。
慌てて目を逸らした僕だけど、目が合ってしまった・・・気がする。
「やばいやばいやばい、これは何か、何というかやばい!!」
あの子の小さい体が、ふわふわの髪が、可愛らしい声が、僕の心臓をバクバクと鳴らす。ガラスに映した自分の顔は見事に真っ赤。
これは、もしかすると、もしかしちゃうと・・・。
僕、木戸春樹は高校二年生の春、初恋に落ちてしまいました。
人生初体験の「恋」というものはまだ儚く、窓の外を舞い散る桜のようでした。