第四話
「なぁ?」
この日も和俊の部屋。
つまらないこで喧嘩して、うん、いつものこと。
「いい加減機嫌直せってー。」
いつも最初に機嫌が直るのは和俊。
ほんとに短絡的。
日常茶飯事だった下らない喧嘩のことは、多分もう全部忘れてると思う。
だけど、だからあたしたちはやって来れた。
「別に怒ってないよ。」
「えー、だって声が怒ってる!顔も!」
「もともとこんな声と顔ですー。」
「あ、そっかぁ。」
「なっ…、もう。」
こんな感じで、適当に喧嘩して適当に仲直りする。
うーん、仲直りって呼ぶにはどうかと思うけど。
なんか、いつの間にかいつも通りって感じ…かな。
「和俊ー、香澄ちゃん、ちょっとー。」
下からおばさんの呼ぶ声がした。
付き合って もう 一年になる。
結構遊びに来てたから、和俊の家族とも仲良くなってた。
「はぁい。」
階段を下りると、おばさんは夕食の準備をしていた。
「香澄ちゃん、今日ご飯食べてく?」
「あ、はい!あの、良いですか?」
「もちろんよー、悪いんだけど、ちょっと手伝ってくれる?」
「はいっ。」
和俊もすぐ下りてきた。
夕食の支度を手伝うあたしの後姿を見ながら、和俊は笑った。
「おー、何かいいなー、お嫁さんみてー!」
「えー?」
「もう何言ってんのこの子はぁ!」
楽しそうに笑う和俊に、あたしも振り向かないまま笑う。
おばさんも振り向かないまま、ちょっと笑って。
「あ、でも 香澄ちゃんだったらいつでも歓迎するからね。」
うあ、すっごい嬉しい…!
もう本当にこのまま此処にいたいと思った。
和俊の家族は素晴らしい。
あたしなんかにもすっごい優しいし。
「うん、ずーっと一緒にいような 香澄。」
和俊。
確信犯?
ねぇ 泣きたくなったこと 知らないでしょ。
「ちょっとこんなとこでそんな事ゆわないでよッ。」
「いいじゃん別にー、なぁ?」
「はいはい、もうお腹いっぱいねー。」
照れ隠しで怒ったようにゆったら、和俊はまた楽しそうにする。
おばさんも笑って会話に入りながら料理する。
ああ、こんな家族が欲しいと思った。
こんな母親になりたい。
和俊と ずっと ずっと 一緒にいたい。
しあわせだった。
しあわせだった。
しあわせだった。
本当に本当に もうこれ以上の幸せは ないと思ってた。
和俊 あの日 までは。