第一話
マイヒーロー。
あなたは最後まで カッコ良かったです。
“じゃあ俺は ヒーローになる”
そんなバカ寒い台詞を、ためらいもなく堂々と言葉にする男。
三村和俊に出会ったのは、何てことはない、ただの合コン。
都内の女子高の二年生だったあたしが、たまたま一回参加してみたイベント。
もともと寂しがり屋じゃないあたしは、別にどうしても彼氏が欲しかったわけでもないけど。
そう言うことに興味があるのは、女の子なら当然だと思う。
とにかくそこで、運命なんてなーんにも感じない出会いをした。
「俺三村和俊、よろしくー。」
明るい印象で、だけど別に特に目立っていたわけじゃない。
一目惚れとか、そう言うのとは全然違った。
「ねぇ、アドレス教えてくんない?」
でも連絡をとっていくうちに、どんどん惹かれてった。
少しずつ会うようにもなった。
ただ映画行ったりボーリングしたり、カラオケ行ったりして。
付き合ってなくてもみんなしてること。
好きじゃなくても、みんなしてること。
なのにあたしは どんどん好きになっていった。
「なぁ、いい加減和俊って呼んでよ。」
「なんで。」
「だっていつまでたっても“三村君”じゃおもんないじゃん。」
「面白い面白くないの問題なの?」
どこにでもある、普通の片思いだった。
だけどあたしはもともと社交的じゃなくて、コイビトへの進み方が分らなかった。
「えー、だってー、俺は 香澄って呼んでるのに。」
「それがおかしいんじゃない?付き合ってもないのに。」
確か、カラオケに行ったときだ。
きっと友達のノリで、ただ暇つぶしに。
彼にとって そんなだと思ってた。
「あはは!香澄ってカタイよな!いまどきそんな奴いねーよ!!」
「えー、そう?」
かたい!?
なにそれ、こっちは名前呼ばれるだけでいっぱいいっぱいなのに!
「なー、じゃあさ。」
ひとしきり笑った彼が、急に真面目になってこっちを見る。
あ、歌、始まってるよ。
そんなことも口に出来ないほど、緊張してたのを覚えてる。
「じゃあ付き合う?」
高校二年生の秋、別に初めての言葉じゃない。
付き合ったこともあるし、好きになった人だって結構いる。
なのに あんなにドキドキしてた。
「好きんなっちゃったんだけど。」
何も言えなかった。
自分が、ちゃんと瞬きしてるのかも分らなかった。
「てゆーか、ずっと好きだったんだけど。」
ずるいよ。
何その上目遣い!
わー、だめだ。
「う、ん。」
降参だ。白旗だ。
ずるいよ 何でこんなにも 苦しくさせんの。
「うん、あたしも、好きだった。」
どこにでもあるような恋愛だった。
なのにこの恋は 世界中どこを探してもないと思えた。
今生きている誰よりも幸せだった。
高校二年の秋。
こうして和俊とあたしは、彼氏と彼女になった。