果物を剥く人間の話
誰も来なさそうな荒野でのんびりしてたら、ちびの角が、抜けた。
なんかグラグラしてるような?と思ってたんだけど、いきなり根元からポロっと。
ぎゃー⁉︎と思って慌ててよく見ると、新しいのが生え始めてた。
……まぁ、確かに普通は一生キズだらけの角を使い続けるってことはないかな。ちびの抜けた角はピカピカのツヤツヤだけど。
そんなことを思ってたら、鱗までバラバラ抜け始めた。
生え替わる時期なのかなぁ?
これだと、飛んでる時にもいくらか鱗が落ちてるかもな。……今更どうしようもないけどね。
でもこんなにたくさん置いていく訳にもなぁ。
もし誰かが見つけて竜の素材だとばれたら、絶対にヤバいことになる。
角はともかく、この鱗。なんとかまとめて、持ち運び出来るようにしないと。
袋に入れると、袋のあちこちが裂けて中身がこぼれ落ちる。(ざらざらざら)
紐で括ると、紐がちぎれる。(ずしゃあぁぁ)
何回やっても同じようになる。
……。
ちびが、何してるの?というふうに首をかしげてこっちを見ている。
そうだよな。自分でも何してんだろって、思うよ……。
とにかく、持ち歩くのは諦めるしかないのは分かった。
何なんだろうな?
この鱗軽いのは良いんだけど……端が刃物みたいになってるのかな?
恐々しながら、指を近づけると……むにっとした感触が。
その辺に落ちている小石に近づけると、小石がすぱっと切れる。
……意味が分からない。
生物は切れないとか?
だからと言って、まさか他の全ての荷物を捨てて、鱗だけ抱える訳にもいかない。
仕方がないので、鱗同士をすり合わせてなるべく粉に。角は勿体無い気がして、剣状に鱗でやすりがけすることにした。
見てます。見てます。
ずーっと見てます。
何を?
こちらの手……ではなく、その手が持っているリンゴによく似た果物を。
しまった……。ちょっと休憩、と思ってつい……。そう言えば、コレちびの大好物だった。
そうそう、蛇だった時も皮を剥いてたら、いそいそ近付いて来てたよなぁ。
やりたいのは、山々なんだけど……。
このリンゴによく似た黄色の果物。(実は勝手に黄リンゴと呼んでいる)
味はちょっとすっぱめで、大きさは小ぶりのリンゴくらい。
だけど、リンゴとの最大の違いは、色でもなく、味でもない。
それは、芯や種が激烈に苦いこと。
どれくらい苦いかと言うと。
うっかり欠片が口に入っただけで、悶絶するくらい苦い。
何十回うがいしても舌が痺れたままで、丸一日は何を食べても味が分からないくらい苦い。
持ってた芯をナイフと間違えて振りかぶると、大口開けた魔獣が大急ぎで口を閉じて、ぴゃっと逃げるくらい苦い。
つまり、絶対に口に入れたくない。
でも、果肉部分は美味い。
要するに、食べるには芯や種をきれいにを取らないといけない。
だけど、蛇だったときは一切れで満足しても、竜は一個二個程度じゃ明らかに足りない。
うーん。
多少割高だけど、樽で買い込めるくらいの甲斐性は、ある。
それを全部剥くのも、まぁなんとか。
問題は。
買い込んだ樽をどうやってちびのとこまで運ぶか、ということ。
まず、ちびと街中まで行くのは論外。
囲まれるか、逆にパニック状態で蜘蛛の子散らしになるか。
買い込めるだけ買って、獣車に載せて運ぶとしてもそのあとその獣車はどうするかと言う話になる。
商人のふりをしたとしても、空荷で町へ行くのは怪しすぎる。
ハンターに依頼して町の外まで運ばせるとしても、ハンターからすれば、下ろした荷物はどうするんだ?と言われるに決まっている。
……。
無理だ。どう考えても無理だ。
あぁ、どっか町から離れたところに野生の黄リンゴの森とかないかな……。
仕方がないので、取り出してしまった黄リンゴは穴を掘って埋めた。
もったいないけど、ちびの前で一人で食べる度胸は無かった。
不思議そうに首をかしげるちびに、こうやって埋めたらそのうちに木が生えて黄リンゴが採れるようになるから、と言いながら砕いた鱗と一緒に埋めて、水をやる。
竜の鱗効果で丈夫な木が生えてきますように。
……できたら大きめの実がなったら良いんだけど。
とりあえず、たくさんの鱗が処分できたから善しとしよう。
一年振りに来た荒野は、荒野ではなくなっていた。
目の前に広がる森……と言うより、樹海。
はぁ?!何で?
場所を間違えたかと一瞬に思うが、樹海以外は変わりなくそこにある。
意味が分からず、樹海の端にちびを降ろして探索する。
誰かが大魔法でも使ったとか?……その魔法が暴走したとか?
……でも何か只の樹海にしてはおかしいような……。
うんうん唸りながらあちこち見ていると、ちびが何かをくわえて持ってきた。
ちびは基本的に拾い食いはしない。蛇だった頃にこっぴどく叱ったら、何か見つけるたびに見せに来るようになった。
それは良いんだけど……。デカイ……のはともかくとして、『金色』のリンゴに見えるんだが。
……。
そうか、何か変だと思ったら全部がデカイのだ。
普通なら指で摘まんで抜ける程度の草が、人の背丈位ある。
ちびは、期待に満ち満ちた目で皮を剥くのを待っている。
そのちびのキラキラの白い鱗。
去年埋めた『黄色』のリンゴ。
『大きな実がたくさんなりますように』
環境破壊!?……イヤ破壊じゃなくて……破壊の反対だから、創造?
やってしまった……。
こんなに大きな樹海を跡形もなく処分するのはムリ。
しかも、どこまで広がるか分からない樹海。
見なかった振りをして逃げたい。
仕方がないので、とりあえず金リンゴを削ぐようにして切り分けながら、ひたすらちびの口に放り込んだ。