魔法少女、学校案内を受ける
「うへぇ……めんどいよう……」
僕が朝起きると長い髪が凄いことになっていた。面倒だけど梳かさないとだめだよね……髪長いって面倒だなぁ……
身支度を整えると学生服に身を包む。しかし、気付けば魔法少女とか言うあの恰好に戻されていた。
……一先ずこの上からでも着れそうな自前のボックスの中に入れてある【魔神大帝】様のローブを模したデザインの僕のローブを着ることにしよう……
「朝ご飯は下で食べるんだったね……」
顔を洗ったり色々済ませると部屋を出て下の階に降りる。このカトレア寮に備え付けられている食堂へと移動するのだ。
「えぇっと……? どこでメニューを……」
そんなことを考えながら立っていると後から来た人たちが僕を追い抜いて席に座った。何も持っていないがいいのだろうかと眺めているとその人は眠そうにしながら学生証をテーブルの上に置く。
すると、間もなく食事が現れた。
ロールパン、クロワッサン、胡桃パン。コンソメスープにスクランブルエッグ、それに厚切りのベーコンのプレートセットと、トマトとササミを蒸したもの、それにきゅうりの様なものと葉物の野菜のサラダが今日のメニューのようだ。
僕も同じように座って食事を摂る。
……それなりの味かな? まぁ【魔神大帝】様が下賜される食事と比べたらの話だけど。一般的に考えるととても美味しい。栄養管理も行っているのだろう。
「ご馳走様でした。」
食べ終わると食器の類は消えた。……便利だなぁ。さて、職員室に行かないと。転入生としてクラスに入るから挨拶とかも考えてないといけないかな~?
「えー今日から急な話だが編入生が来る。時期がずれていることから少々問題事が起こるだろう。出来る限りサポートしてあげるように。それではマキさん入って。」
来た!
「失礼します。」
入室とほぼ同時にざわめきが聞こえる。……そうだよね。僕だっていかにローブが恰好良いとしてもローブの下にこんな変な服着た転校生見たらびっくりするもん……
「……マキ、です……神巫女です。よろしくお願いします……」
消え入りたい気分、とてもブルーになりながらそう言うと担任の先生は僕の学校案内の人を呼んだ。
「えー……ニースフェリア。昨日も言っていた通りマキさんに学校案内して差し上げるように。いいか? 丁重に、だぞ……?」
「は、はい!」
何故かやたらと威圧感のある口調で僕の席と思われる誰もいない籍の隣にいる男子生徒にそう言う先生は僕にこれからの授業は受けなくていいから広い校内について今からでも知っておくべきだと嫌に力説されて教室からニースフェリア君と一緒に出ることになった。
(……丁重に案内ってことは……これから殺し合いでもするのかな? 受けて立つよ?)
魔神軍、というより彼女の育ての親の問題で少々思考が物騒な彼女は内心で好戦的に笑いながら教室外に出て案内役のニースフェリアから自己紹介を受ける。オレンジ色の髪は恐らく土属性の証拠。この人も魔力は多そうだ。その髪型はウルフヘアーだが、真ん丸な目が狼というより犬のような印象を与えて来る。
「あ、あの、平民如きが案内役を務めさせてもらい光栄です。ニースフェリアと申します。」
「はい。初めましてニースフェリアくん。僕はマキだよ。案内よろしくね?」
まぁその辺はさておいて奇襲に応じられるように魔術をセット。おっと、何だか挙動不審だけど気付かれたかな? 流石第1階層の魔導世界。それにしても何か相手の挙動不審さは凄いなぁ。気付いたことは褒めてあげるけどそれを悟られるのはまだまだだねぇ……
「よっ、よろしくお願いしますっ! 精一杯案内させてもらいます!」
「……そんなに気を張らなくても……」
「頑張ります!」
(……あぁ、変人っぽい僕には変人をあてがおうと。学校の方針かな? 喧嘩売ってるなら買うけど……今の状態じゃ買えないしなぁ……)
僕が変な目で彼を見ていると彼は案内を開始してくれた。文字通りの丁寧な案内で、奇襲も待ち伏せもなく、避難経路も抑えられたし人目に付かなさそうな場所もピックアップできた。
しかし、僕には気になることが。この衣装の所為か周囲からの視線が半端ないのだ。引き裂いて捨てたいけどそんなことをすれば全裸になってしまう。
「あの、申し訳ありません……」
「へ? 何かな?」
この魔法少女の格好は引き裂いても修繕されるという変な事実を妙なタイミングで知ってしまった僕が若干上の空で歩いていると急にニースフェリア君が謝って来た。
「平民が、神巫女様の案内をしていることで無用な視線を集めてしまっているので……」
「あぁ、僕の所為じゃなかったんだ。ふーん。」
魔法少女の格好なんて浮いてると思ったんだけどそうでもないんだねぇ。後さっきからこの子自分を卑下し続けてるけど鬱陶しいなぁ……僕は【魔神大帝】様じゃないから負の感情食べられないんだよ。元々天使族だから陰気にされるとやるせないなぁ……
「平民だから平民だからって自分のこと卑下しないでくれないかなぁ?」
「ですが……」
「この学校って実力主義なんでしょ? 身分主義じゃない。」
「それは建前上で……」
「ふーん。でも、冒険者とかになれば特権階級になれるって聞いたけど。」
このシステムに関しては【魔神大帝】様の調査指定対象だったのですぐに調べたことだ。山を二、三個吹き飛ばすと名実ともに特権階級に舐められないようになれるから活用すると良さそうだ。しかし、ニースフェリアくんは難しい顔をして首を振る。
「そんな実績、ないんですよ……仮にあったとしても貴族の方々に……」
「……じゃあその貴族と組んでみる?」
「無理ですよ。誰も僕なんて相手に……」
「じゃあ僕のパーティに入る?」
あれ? 何か変なこと言ったかな? ただでさえ真ん丸な目が更に真ん丸になったんだけど。
「い、いや、でも……」
「僕さぁ、諸事情あってあんまり魔術使いたくないから……土属性だよね? 防御とか……」
主に詠唱とか。詠唱とか。ついでに衣装とか。
「本当に、いいんですか……?」
「いーよ? はい申請。相互受理にしてあるから嘘じゃないって分かるでしょ?」
……何か泣き始めたんだけど……転校初日から人を泣かせるなんて変な噂立てられないといいなぁと思いながら僕は泣いてるニースフェリア君の精神状態を気にしつつ眺めた。