プロローグ 続
「ふぅ……着いた。」
流石は【魔神大帝】様の術。第3世界から第2世界を越して第1世界に飛んだというのにタイムラグなしのようだ。
さてさて、それはともかく【魔神大帝】様の教えの通り挨拶を一応行わないとな。
……一応との仰せの場合は別に行わなくてもいいという意味を込めておられることが多いのだが、せっかくの仰せなのだから僕はやる。
「お? アレかな……」
ちょうど良いところにどう見てもだらしない恰好をしているのにもかかわらず眩いばかりに神々しい青年がいた。僕はその【魔神大帝】様には劣るものの世の中が不条理だと思えるくらいの高い顔面偏差値を誇り【神氣】と【魔素】を垂れ流しにしている彼に近づくと挨拶をしてみる。
「失礼します。《エクセラール》の神様でいらっしゃいますね?」
「そうだけど……君は?」
急に声を掛けられ、下界を覗き見ていたらしい青年神が僕の方を勢いよく向いた。
「私は第3世界より来ました【魔神大帝】様の使いでございます。」
「第3世界……? あぁ何か少し前に【全】が第2世界から12使徒連れて行って創ったとかいう所か……」
(その全さんとやらはもうすぐ我が君に永久に封印される予定ですがね。)
僕はそんなことを思いつつ交渉前にアイスブローキングを図り、互いの緊張をほぐしていった。そして最終的には気軽に言葉を交わすことに成功する。
「へ~【魔神大帝】くんねぇ……確かにここまで一気に飛ばした辺りとか君に付着してる【魔素】を考えれば中々の使い手みたいだね。」
「中々ではないです。あの方こそ当代一の使い手です。」
僕はそう断言した。すると、青年神(名前はユルティムというらしい)が面白くなさそうな顔をする。
「全階層世界含めて最高の魔法世界、《エクセラール》の神である僕を差し置いてその言い草はなぁ……」
「失礼しました。」
不満気な彼に僕はすぐに謝った。【魔神大帝】様が至高であるという事は我らが知っていて、信じる者がそう思っていればいい。わざわざ信じるつもりのない他の神を不快にする必要はないと判断したのだ。
【魔神大帝】様は「臭いからマジでその名はやめろ。」とか「そんなに良い奴じゃねぇよ俺は」とか「持ち上げ過ぎ……」「気持ち悪いんだけど?」など仰り謙遜なされ、自ら布教を為されない。我らが教えを広める必要があるため、話題に上がると僕らはとめどなく素晴らしい所を上げ始める。
しかし、他のことを信奉している人や神に無理に【魔神大帝】様の教えを押し付けるという事はしない。そんな愚か者じゃないし、【魔神大帝】様は御心が広いのだ。
「……それにしても君可愛いね。」
「は?」
そんな我らの教義を思い出してしばし沈黙していると、青年神ユルティムが急な話題転換を行ってきた。
「その【魔神大帝】くんとやらも馬鹿だよね~こんな可愛い子を一人で送り出すとは……」
「えぇと……」
馬鹿はあんただ。もっかい父様のことを馬鹿にしたらぶっ殺す。大体、僕は男だ。まぁ一応天使とか言われる種族だから両性偶有でどちらでもないけど意識は男。
「僕が食べちゃおうかな? 一応確認だけどその【魔神大帝】くんとはもうヤっちゃったのかな?」
「あの……私男なんですが……」
敬語だから分かり辛かったかな? 確かに僕は自覚するくらい中性的な顔立ちだけど……
「ん? ……でもなれるでしょ?」
「そりゃ……まぁ……元は天使ですから……」
「じゃあ問題ない。」
にっこり笑うユルティム。イケメンだが僕はそんなの許さない。僕はノーマルだ! ……まぁ【魔神大帝】様が望まれるなら喜んでこの身を捧げるつもりはあるけど……
うん。今はそれは関係ない。置いておこう。
「問題しかないよ!」
僕は敬語を止めて普通の言葉遣いに戻して逃げの一択をとる。……が、それはユルティムに阻まれた。
「フッフッフ……僕はただ君と喋ってたわけじゃないよ? 君が逃げられないように【魔法陣】をしっかり張っていたのさ……さぁ覚悟しようか?」
「っ~!」
不味い。この変態、本気だ。逃げられないし、【魔法陣】で僕の魔法が使えない……僕が本気で貞操を奪われると思ったその時だった。
―――……いや、何やってんだこいつら……取り敢えず【破壊陣】うちの子に何してんだ?―――
僕が持っている【魂の欠片】から我が君の声が聞こえてきた。そしてその瞬間ユルティムが構成していた【魔法陣】がガラスの様に砕け散る。
「我が君っ!」
僕が安堵してそう叫びつつ【魂の欠片】を掲げて跪いていると向こうでは何かあったようだ。【魔神大帝】様の氣がお乱れになった。
―――ちっ! 悪いが切る! しばらく連絡できないが油断すんなよ!―――
「はいっ!」
連絡を終えられると僕はユルティムの方を見た。彼は全裸になっていた。僕は思わず悲鳴を上げる。
「うぎゃあっ!」
「ん~減点。もっと可愛らしい悲鳴を上げなよ。」
「ううぅ五月蠅いっ!」
何か汚された気分だ。
「……でもアレだなぁ……【魔神大帝】くんだっけ? 第3世界からここまで術を飛ばして来て僕の【魔法陣】を破壊する辺り無理に迫っても彼の加護を突破するのは厳しそうだ……」
【魔神大帝】様! ありがとうございます! 変態が威光に怯んでいます! 僕が感謝したその瞬間、ユルティムは笑顔で告げる。
「……そうだ。ゲームをしよう。」
「っ!」
雲行きが怪しくなってきた。【魔神大帝】様はお遊びを大変好まれる。それが例えどんなに変な物であってもだ。
「≪我この者に試練と修練の意を込め、彼の衣を下賜する。≫【ドレスアップ】」
次の瞬間。僕の体、詳しくは胸の辺りにに不要なモノがくっついた。
「ぎゃあぁぁぁあっ!」
「うん……いい。凄くいいよ……大きすぎない未熟な胸。それでいながらしっかりとくびれている腰。少し小さ目なお尻……顔もあどけなさを残していてプラチナ色のロングヘアーが最高に映えている……」
「へ……へへ……変たぁいっ!」
大きめのローブを着ているのに透視されている気分だ。……ってアレ? 何か胸元がスースーする……
「ローブじゃない……」
「そりゃあね。折角可愛いんだから……」
灰色のローブだったはずの元僕の服は今、薄いピンク色のフリフリしたドレスみたいなものに変えられていた。胸の上の部分は見えているし、膝上しかないスカートでもの凄い嫌だ。
「いい! 何ていいんだ……恥ずかしがってスカートを抑えようとするその表情……最高だ!」
「し……死ねっ!」
もう下見とかそういう問題じゃない。最悪僕がこの世界の神になればいいという勢いで【爆炎呪文】を無詠唱で放った……つもりだが、何も出ない。
「……へ?」
僕が困惑しているとユルティムが薄く笑った。
「何らかの魔法を行使しようとしたね? フフ……やってみるといい。ただ、今君の頭の中に流れた詠唱をしないと術は発動できないよ……?」
今。頭に流れた詠唱……? そう考えると鋭い痛みが僕の頭を襲った。
―――みんなの笑顔を守るため。君のハートを狙い撃つ!【プリティマジカルエクスプロージョン】!―――
「言えるかあぁぁあぁぁぁっ!」
僕は絶叫した……が、【魔神大帝】様はどうやら助けてくれないようだ。……何となくだけどこの姿を見ていたら爆笑してると思う。
「さて、この姿はかなり魅力的だが解除条件がある。これを伝えないといけないのが難点だ。」
「早く教えろ!」
直後僕の頭の中にブザー音が響いた。
「あ、女の子らしくない態度をとったらペナルティだよ? ポイント制で悪化していくから。僕の方は大歓迎だけど。」
言い返すと碌なことにならなさそうだったので、僕は黙っておく。その様子を見てユルティムは満足気に頷いた。
「ようやくどういう状況か呑み込めたみたいだね。賢いのも加点だ。さて、試練の内容なんだけど……この世界の【魔王】と言われるモノを倒すことだよ。」
戦闘なら大丈夫だな。うん。速攻で終わらせてやる!
「じゃ、詳しくは下に送った時にステータスって言えば出るスクリーンのヘルプの項目を押したら出るから。」
「……わかった。」
「僕とお話ししたくなったら教会でお祈りすればここに来れるよ。いつでも歓迎するからね!」
「早く下に行きたいのですが?」
(というより、早く貴様と別れたい。)
その願いが通じたのかユルティムはあっさりと僕を下ろしてくれた。
「いいよ~じゃ、いってらっしゃーい。」
こうして僕は別世界で早々に災難に巻き込まれた。
「……さて、覗こうっと。いや~良い形の【魔素】だったなぁ……僕の妻として作った器ぴったりの。」
ユルティムはずっと覗いていることを僕はこの時忘れていた。
あ、心の考えや口調のキャラがまとまりがないのは四天王として考えている所と私情が混じってたりするからです。
次からは基本地で行きます。